グレイスワインとは?
グレイスワイン(GRACE WINE)は、山梨県甲州市勝沼町等々力(とどろき)にある中央葡萄酒株式会社のワインの名前で、ワイナリーもこの名で知られています。1923年に勝沼町で始まり、いまは5代目が栽培と醸造を担う家族経営のワイナリーです。
会社の名を世界に広めたのは、日本で古くから育てられてきた白ぶどう、甲州(こうしゅう)の白ワインでした。甲州は、従来、頭の上に張った棚で育てられてきました。グレイスワインは1992年に、甲州をヨーロッパのように垣根に仕立てる試験を始め、2002年には勝沼から北西へ40キロ離れた北杜市明野町の標高700メートルの土地に、自社の「三澤農場」を拓きました。この農場の甲州でつくったワインが、2014年、イギリスのワイン誌『デキャンター』が開くコンクール(Decanter World Wine Awards)で金賞を受けます。会社はこのコンクールを世界最大のワインコンクールと紹介し、日本ワインとして初めての金賞だったと書いています。
鳥居平、菱山、そして明野
ワイナリーは勝沼の町なかにありますが、ぶどうは土地ごとに分けて仕込まれています。公式サイトは、育てる場所ごとの違いを次のように説明しています。
鳥居平(とりいびら)地区は、柏尾山の標高450メートルほどの南西向きの斜面にある、ごく小さな地区です。日当たりがよく、南東の笹子峠から吹き下ろす涼しい風で夜は冷え込みます。礫(れき)まじりの粘土の土からは凝縮した小さな房が採れ、古くから勝沼の銘醸地とされてきました。菱山(ひしやま)地区は勝沼でもっとも高い標高500〜600メートルにあり、大きな花崗岩が点在する複雑な土地です。会社は、ここが良質な白ワイン用のぶどうの産地だと書いています。
明野の三澤農場は、西に南アルプス、東に茅ヶ岳、北に八ヶ岳、南に富士山を望む高原にあります。周りの山が雨雲をさえぎるため日照時間が長く、会社は「日本一の日照時間」と紹介しています。この農場では甲州のほかに、メルロ(Merlot)、カベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)、カベルネ・フラン(Cabernet Franc)も育てています。
垣根で育てた甲州は、棚の甲州にくらべて粒が小さく、糖度が高く、りんご酸を多く含んでいたと会社は書いています。そのため、ふつうの甲州では起こりにくい「マロラクティック発酵」(酸っぱいりんご酸が、やわらかい乳酸に変わる発酵)が自然に起きるようになり、ワインの個性になりました。畑では除草剤や化学肥料を使わず、2016年からは有機栽培にも取り組んでいます。
歩み
1923年、初代の三澤長太郎が勝沼町でワイン造りを始め、「長太郎印葡萄酒」を売り出しました。公式サイトによれば、醸造所の屋根より高く育った欅(けやき)の木は、創業の年に芽を出したものだそうです。
3代目の三澤一雄は、東京商科大学(いまの一橋大学)を出て日本興業銀行に勤めたあと、1949年に勝沼へ帰って家業を継ぎました。1953年に中央葡萄酒株式会社を設立し、甲州でつくった最初のワイン「グレイス」を1957年に売り出します。「グレイス」は優美なさまを表す英語で、そうあってほしいという願いを込めた名前でした。1961年には、作家の山本周五郎が随筆集『暗がりの弁当』で、この会社のワインを国内で見つけた逸品として紹介しています。
1989年に社長を継いだ4代目の三澤茂計は、三菱商事から戻った人です。甲州の垣根栽培の試験を始め、明野に農場を拓き、2004年にはフランスのボルドー大学で白ワインを研究していたドゥニ・デュブルデュー教授の指導を受けて甲州を仕込みました。
2008年からは、5代目の三澤彩奈が栽培と醸造の責任者を務めています。ボルドー大学の醸造学部と南アフリカのステレンボッシュ大学院で学び、オーストラリアやチリなど南半球のワイナリーでも経験を積んだ人です。2014年の『デキャンター』の金賞のあと、グレイスワインの甲州は6年続けて金賞を受けました。

代表的なワイン
三澤甲州は、三澤農場の甲州だけでつくる白ワインです。かつての『キュヴェ三澤 明野甲州』を、2020年のヴィンテージから名前を改めました。収量を抑え、区画ごと、ときには樹ごとに分けて収穫し、畑の酵母で発酵させています。会社は、ふくよかな香りと、やわらかく複雑な深みのある味わいと説明しています。
グレイス甲州は、勝沼の標高400メートル以上の畑の甲州でつくる辛口の白ワインです。秋雨の影響を減らすために一房ごとに笠をかけ、よく熟すのを待って収穫します。甘夏やオレンジのような柑橘の香りに、りんごや洋梨、熟した白桃の香りが重なり、後半にはほのかな苦みをともなう旨みが続くとされています。
甲州 鳥居平畑は、鳥居平の最上の区画のぶどうを古いフランスのオーク樽で発酵させた白ワインです。黄色いりんごや黄桃、洋梨の香りに、丁子などのスパイスや焼いたような香りが加わり、まろやかな酸と長い余韻があります。
グリド甲州は、4代目がフランスのアルザスでピノ・グリ(Pinot Gris)の可能性に魅せられて、1999年に生んだワインです。名前は、甲州の果皮の色を表すフランス語の「グリ(gris)」にちなみます。家庭の食卓でも飲食店でも、甲州らしさをよく引き出したワインとして使われてきたと会社は書いています。
周五郎は、グレイスワインでただ一つの甘口ワインです。マスカット・ベーリーAと甲州を原料に、発酵の途中でぶどうの蒸留酒を加え、3代目が仕込んだワインに継ぎ足しながら4年以上樽で熟成させています。山本周五郎はこのワインを、次のようにほめました。
これまで飲んだ和製ブドー酒のどれにも似ない、これぞワインだ
ラベルの題字は、周五郎自身の筆によるものです。





