この記事でわかること
- アマローネ(Amarone)がイタリアのどこで、どんな土地でつくられるのか
- なぜぶどうを干すのか、干すと何が変わるのか
- どうして値段が高いのか
- 何と合わせて飲むと楽しいか、いくらぐらいで買えるのか

イタリアの北東部、ヴェネト州(Veneto)。ロミオとジュリエットの舞台として知られるヴェローナの街から、北へ車で20分ほど走ったところにヴァルポリチェッラ(Valpolicella)という谷があります。
北にレッシニア(Lessinia)の山地、南にアディジェ川の平野。そのあいだの丘に、11本の谷が南北に走っています。ここでつくられる濃厚な赤ワインが、アマローネです。
ヴェローナの北にある、11の谷
ヴァルポリチェッラという名前は、「たくさんのセラーがある谷」を意味するという説があります。実際、この谷はローマの時代からワインの産地でした。
産地はヴェローナ県の19の自治体にまたがりますが、そのなかでも中心とされる5つの村は「クラシコ(Classico)」と名乗ることができます。ラベルにこの語があれば、産地のなかでも古くからの中心地でつくられたものです。
クラシコの南側の境界は、標高100メートルの等高線で引かれています。これは行政の都合ではなく、地質の境目です。氷河や川が運んだ古い段丘と、アディジェ川に向かって下る平野とが、ちょうどこの高さで分かれます。
丘には昔から、ヴェローナの裕福な人々が別荘を構えてきました。ヴィッラ・デッラ・トッレ(Villa della Torre)のような壮麗な館がいまも残り、そのいくつかはワイナリーとして使われています。

ぶどうを干す、という選択
9月の終わりから10月のはじめに収穫したぶどうを、すぐには仕込みません。木箱や竹の簾に、房が重ならないよう一層だけ並べて、風通しのよい部屋へ運びます。この部屋を「フルッタイオ(fruttaio)」と呼びます。セラーの上の階に設けられることが多く、四方から風が通るようになっています。
そこで四か月ちかく置きます。房の重さが半分になるまで——決まりの言い方では「少なくとも半分を失うまで」です。その間、房は毎日ひっくり返され、傷んだ粒はそのつど取り除かれます。
水分が抜けるあいだ、ぶどうの中では糖が濃くなり、酸が落ち着き、色や渋みのもとになる成分が凝縮していきます。仕上がったワインからは、干した果実やタバコ、スパイスのような香りが立ちます。この香りについて、産地の決まりを定めた文書は、陰干しのあいだに生じる貴腐菌のはたらきによるものだと説明しています。
現代的な設備をどこまで使ってよいかも決まっています。湿度と温度を管理する空調は使えますが、熱で乾かすことは禁止です。時間をかけて水分を抜く、というやり方そのものが守られています。
仕込みを始められるのは、12月に入ってからです。
畑で、まず選り分ける
畑から穫れたぶどうは、まず畑で選り分けられます。決まりが干す部屋に入れてよいとしているのは、1ヘクタールあたりに認められた収穫量の三分の二ほどまで。残りは、同じ谷の別のワインに回されます。軽やかな「ヴァルポリチェッラ」や、アマローネの搾りかすで再発酵させる「リパッソ(Ripasso)」がそれです。
同じ畑の、同じ日に穫ったぶどうが、選別の段階で別々の名前のワインになっていきます。
そのうえ、干すあいだに重さは半分になります。搾れるワインの量は、そこからさらに減ります。
保護協会の集計では、2025年に谷全体で穫れたぶどうのうち、実際に陰干しへ回されたのは4割ほどでした。決まりの65%は1ヘクタールあたりの最大収量に対する割合、こちらは谷全体の収穫量に対する割合なので、二つを並べて比べることはできません。それでも、干すぶどうが収穫の一部にとどまることは、どちらの数字からも分かります。
どんなワインなのか
色は濃く、熟成が進むとガーネットを帯びます。香りは干した果実、タバコ、スパイス。味は辛口で、果実味がはっきりしていて、とろりとした厚みがあります。アルコールは14パーセント以上と決められていて、16パーセントを超えるものもあります。余韻はとても長く続きます。
干したぶどうからつくりますが、甘口ではありません。濃くなった糖を、最後まで発酵させてアルコールに変えています。
使うぶどうは、コルヴィーナ(Corvina)とコルヴィノーネ(Corvinone)を中心に、ロンディネッラ(Rondinella)を加えたもの。いずれもこの地方の土着品種です。
名前の由来には、よく知られた話があります。1930年代、地元の協同組合の醸造長が、セラーの奥で忘れられていた甘口の樽を試飲しました。糖がすべてアルコールに変わって、辛口になっていたそうです。そこで「これはアマーロ(苦い)ではない、アマローネ(大きな苦い)だ」と言った、というものです。
ただし産地の決まりを定めた文書は、この逸話を採っていません。そこに書かれているのは、1900年代の初めにラベルのない瓶が家庭用に現れたこと、そして商品として最初に売り出されたのが1953年だということだけです。

煮込みと、熟成したチーズ
ヴェローナの食卓には、このワインを使う料理があります。リゾット・アッラマローネ(risotto all’Amarone)です。地元のヴィアローネ・ナーノ米をアマローネで炊き上げた、深い赤紫のリゾット。土地の米とワインが一皿になったものです。
もうひとつ知られているのがパスティッサーダ(pastissada)。肉を赤ワインと玉ねぎ、香辛料に一日近く漬け込んでから、ゆっくり煮込んだ料理で、ポレンタを添えて食べます。
チーズなら、北の山でつくられるモンテ・ヴェロネーゼ(Monte Veronese)。決まりの文書も、合わせる相手に熟成させたチーズを挙げています。
日本で合わせるなら、牛肉の赤ワイン煮、ラムやジビエのロースト、熟成した硬いチーズ、ドライフルーツあたりでしょう。料理なしで、食後にゆっくり少しずつ飲むのも定番で、決まりの文書はこれを「瞑想のワイン(vino da meditazione)」と呼んでいます。
行くなら、買うなら
ヴァルポリチェッラへは、ヴェローナが起点です。ミラノとヴェネツィアのあいだにあり、鉄道でどちらからも1時間半ほど。街から谷まではすぐで、丘のあいだをワイン街道が抜けています。試飲を受け入れているワイナリーが多く、別荘だった館をそのまま使っているところもあります。夏はヴェローナの円形闘技場で野外オペラが開かれるので、そちらと組み合わせる人もいます。
日本での入手ですが、調査時点(2026年9月4日)にイタリアワインの専門店で確認できた範囲では、アマローネは4,000円台から見つかり、7,000円から1万円あたりが中心でした。名の通った造り手のものは2万円を超え、いちばん高いものは5万円台です。
いきなりアマローネは高い、と感じる場合は、同じ谷のリパッソという手もあります。アマローネの搾りかすを使って再発酵させたもので、同じ調査では2,000円台から6,000円弱、3,500円から5,000円あたりが中心でした。
出典
一次情報
- イタリア農業・食料主権・森林省 官報 n.122(2019年5月27日)整理番号 19A03282、および官報 n.142(2023年6月20日)整理番号 23A03462「Amarone della Valpolicella DOCG 生産規定の通常改定」。本文で「決まり」「文書」と述べているものはこれを指す。産地範囲(ヴェローナ県の19自治体)とクラシコ(ネグラール、マラーノ、フマーネ、サンタンブロージョ、サン・ピエトロ・イン・カリアーノの5自治体)、標高100mの境界と地質、陰干し100〜120日と「重量の少なくとも半分を失うまで」、フルッタイオ、空調可・熱による除湿の禁止、12月1日以降の仕込み、品種構成、色(濃く、熟成でガーネットを帯びる)、香り(干した果実・タバコ・スパイス)、味、アルコール下限14%、合わせる料理と「瞑想のワイン」、1953年の商業化の出典。陰干しに回せる上限65%は、実際の収穫量ではなく「1ヘクタールあたりの最大収量」に対する割合(第4条13項)。香りと貴腐菌を結ぶ因果は第9条bの原文にある——
profumo che ricorda le frutta passita, il tabacco e le spezie, grazie alle muffe nobili createsi nel corso dell'appassimento。本文はこれを文書の説明として示し、地の文で断定していない。毎日の反転と重量半減も同条にある——i grappoli devono essere controllati ogni giorno e girati/sino a che non perdono almeno la metà del loro pesohttps://www.gazzettaufficiale.it/eli/gu/2023/06/20/142/sg/pdf - 同 品種・原産地カタログ(catalogoviti)掲載の旧版生産規定(〜2014年3月7日省令) http://catalogoviti.politicheagricole.it/scheda_denom.php?t=dsc&q=1004
- Consorzio Tutela Vini Valpolicella「Annual Report 2026」(2025年実績)。収穫量のうち陰干しに回された割合(約39%) ※協会発表を報じた記事: https://www.tastinglife.it/2026/07/09/valpolicella-il-report-2026-del-consorzio-575-milioni-di-bottiglie-nel-2025-ed-export-in-87-paesi/
二次情報
- AIS Lombardia。アデリーノ・ルッケーゼの逸話(規定は採用していない) https://www.aislombardia.it/racconti-dalle-delegazioni/l-amarone-della-valpolicella-storia-e-attualita-di-una-meravigliosa-disattenzione.htm
- リゾット・アッラマローネ、パスティッサーダ、モンテ・ヴェロネーゼ、ヴァルポリチェッラの11の谷とレッシニア山地、ヴィッラ・デッラ・トッレ https://www.cellartours.com/blog/italy/a-taste-of-verona-discovering-authentic-veneto-cuisine https://www.decanter.com/wine/touring-valpolicella-494988/ https://www.italia.it/en/veneto/verona/things-to-do/verona-itinerary-wines-recipes-places-of-taste
価格
- 国内のイタリアワイン専門店の在庫(2026年9月4日調査)。アマローネ20点、ヴァルポリチェッラ・リパッソ16点 https://www.tuscany.co.jp/