この記事でわかること
- シチリア(Sicilia)の畑が、島のどこに広がっているのか
- なぜ条件のいちばん厳しい呼称がひとつしかないのか
- ネロ・ダーヴォラ、カタラット、ネレッロ・マスカレーゼという品種のこと
- 覚えておきたい産地の名前と、何と合わせて飲むか

イタリアの南、長靴のつま先の先にある島です。地中海でいちばん大きく、面積は九州より少し小さいくらい。パレルモとカターニアという二つの大きな街があります。
島の中は平らではありません。北の海沿いには山が迫り、内陸には丘が広がり、東には火山がそびえています。海に囲まれていながら、内陸には海の見えない土地もある大きさです。
畑は島のほぼ全域にあります。その広さはイタリアでも有数で、州のぶどう・ワイン研究所は、島の畑をおよそ9万7,000ヘクタールとし、州別ではヴェネトに次ぐ広さだとしています。
広いのに、DOCGはひとつだけ
ところが、原産地呼称の数を見ると様子が変わります。
2025年3月の時点で、シチリアの呼称はDOCが23、IGTが7。そして条件のいちばん厳しいDOCGは、たったひとつです。畑の広さでは上位なのに、この数はトスカーナの11やヴェネトの14と比べてずいぶん少なく見えます。
理由のひとつは、この島の歴史にあります。シチリアは長いあいだ、量を出す産地でした。強くて色の濃いワインを大量につくり、北の産地やフランスへ樽で送る。そういう役目を担ってきた土地です。
産地の名前で売るという発想が広がったのは、そこからあとのことになります。呼称の数の少なさは、質の低さではなく、成り立ちの違いを映しています。
なお、島の全域を範囲とする「シチリア(Sicilia)」というDOCもあります。島の名前がそのまま呼称になっている珍しい形です。
23あるDOCの散らばり方も見ておきます。島のどこにでもある、というのが実際のところです。
| 場所 | 呼称の例 |
|---|---|
| 西(トラーパニ、マルサラ周辺) | マルサラ、アルカモ、サンブーカ・ディ・シチリア、シャッカ |
| 中央(パレルモ内陸、アグリジェント) | モンレアーレ、コンテッサ・エンテッリーナ、メンフィ |
| 東(カターニア、シラクーザ) | エトナ、シラクーザ、ノート、ヴィットーリア |
| 北(メッシーナ周辺) | ファーロ、マメルティーノ・ディ・ミラッツォ |
| 離島 | マルヴァジーア・デッレ・リーパリ、パンテッレリーア |
これに加えて、島の全域を範囲とする「シチリア」があります。産地の名前で売るための呼称が、島の隅々まで用意されているということです。
標高が、島の中に別の気候をつくる
シチリアを「暑い南の島」とだけ思っていると、外れる産地があります。
いちばん分かりやすいのがエトナです。ヨーロッパでいちばん高い活火山の中腹には、標高900メートルに達する畑があります。夏でも夜は冷え込み、収穫は10月の終わりから11月まで続きます。シチリアでいちばん遅い収穫です。
そこで生まれる赤ワインは、色が淡く、酸が高い。海沿いの産地のものとは、まるで別の性格になります。
南か北かではなく、その畑がどこにあるか。 シチリアは、それがひとつの島の中で起きている土地です。

主役の品種
作付面積でいちばん広いのは、白ぶどうのカタラット(Catarratto)です。州の研究所によれば、カタラット・ビアンコ・ルチードが島の畑のおよそ18パーセント、カタラット・ビアンコ・コムーネがおよそ15パーセントを占めます。
赤ぶどうの主役はネロ・ダーヴォラ(Nero d’Avola)で、およそ17パーセント。島を代表する品種で、色が濃く、果実味のはっきりした赤ワインになります。
そしてエトナのネレッロ・マスカレーゼ(Nerello Mascalese)。面積は大きくありませんが、この島のワインの見え方を変えた品種です。
覚えておきたい産地は四つあります。
- エトナ — 火山の中腹。色の淡い赤ワインと、酸のある白ワイン。記事はこちら
- チェラスオーロ・ディ・ヴィットーリア — 島の南東。シチリア唯一のDOCG。ネロ・ダーヴォラとフラッパートを合わせた赤ワインです
- マルサラ — 島の西端。アルコールを加えて仕上げる酒精強化ワイン
- パンテッレリーア — アフリカに近い離島。干したぶどうからつくる甘口ワイン
残りの二つも、この島でしか成り立たない造り方をしています。
マルサラは島の西端の港町の名前です。ワインにアルコールを加えて仕上げる造り方で、そのぶん長く保ちます。辛口から甘口まであり、料理に使われることも多いワインです。
パンテッレリーアは、シチリア本島とアフリカ大陸のあいだに浮かぶ小さな島です。強い風が吹くため、ぶどうは地面のくぼみに低く仕立てられます。この仕立て方は「パンテッレリーアの共同体によるアルベレッロ仕立てのぶどう栽培の伝統的農法」という名前で、2014年にユネスコの無形文化遺産に登録されています。登録されているのは栽培の方法であって、ワインそのものではありません。ここでつくられるのは、干したぶどうからつくる甘口ワインです。
チェラスオーロ・ディ・ヴィットーリアだけが、この島で条件のいちばん厳しい区分にあたります。ネロ・ダーヴォラとフラッパートという二つの品種を合わせた赤ワインで、色はさくらんぼのように明るく、名前の「チェラスオーロ」も、さくらんぼを意味する言葉から来ています。
揚げものと、ピスタチオと
シチリアの食は、島を通り過ぎていった人々の重なりでできています。
麓のカターニアには魚市場があり、そのまわりに屋台や食堂が集まります。名物は、揚げた米のコロッケアランチーニ(arancini)、なすとリコッタを使ったパスタ・アッラ・ノルマ(pasta alla Norma)、そしてグラニータ(granita)をブリオッシュと一緒に食べる朝ごはん。
島の北西、エトナの麓のブロンテ(Bronte)でとれる緑色のピスタチオは、菓子にも料理にも使われます。
甘いものが多い島でもあります。リコッタを詰めたカンノーロ(cannolo)、色とりどりのマジパンで果物をかたどった菓子。砂糖と柑橘とナッツを使う菓子の系統は、この島に長く残ったものです。
合わせ方は産地によって変わります。ネロ・ダーヴォラの赤ワインは、トマトを使った煮込みや肉料理に。エトナの色の淡い赤ワインは、豚肉や鶏肉、きのこを使った料理に。カタラットの白ワインなら魚介です。

行くなら、買うなら
カターニアかパレルモが起点です。どちらにも空港があり、ローマやミラノから直行便で行けます。カターニアからエトナへは車で1時間ほど、南東のヴィットーリア方面へは2時間ほどです。
日本での入手ですが、調査時点(2026年9月4日)にイタリアワインの専門店で確認できた範囲では、ネロ・ダーヴォラの赤ワインは1,300円台から見つかり、1,500円から2,500円あたりが中心でした。エトナのロッソは2,500円台からで、3,000円から6,000円あたりが中心です。
入りやすい島です。 まずネロ・ダーヴォラで島の南の味を知り、そのあとエトナを飲むと、同じ島でこれだけ違うのか、と分かります。
出典
一次情報
- Federdoc『VINI ITALIANI A DENOMINAZIONE D’ORIGINE 2025』。シチリアの原産地呼称の件数(DOCG 1、DOC 23、IGT 7。2025年3月時点)と、それぞれの名称。トスカーナ11・ヴェネト14との比較もここから https://www.federdoc.com/new/wp-content/uploads/2025/06/Booklet-2025_WEB.pdf
- シチリア州ブドウ・ワイン研究所(IRVO)『州の栽培・醸造の現状』2025年4月。島の畑の広さ(約9万7,000ヘクタール、州別でヴェネトに次ぐ)、主要品種の構成比(カタラット・ビアンコ・ルチード約18%、ネロ・ダーヴォラ約17%、カタラット・ビアンコ・コムーネ約15%) https://www.irvos.it/wp-content/uploads/2021/02/Vitivinicoltura-regionale-APRILE-2025.pdf
- シチリア州ブドウ・ワイン研究所(IRVO)掲載のエトナDOC生産規定。標高、収穫期、品種構成。詳しくはエトナの記事の出典欄を参照 https://www.irvos.it/wp-content/uploads/2021/08/Etna-2024.pdf
二次情報
- ユネスコ無形文化遺産。2014年に「パンテッレリーアの共同体によるアルベレッロ仕立てのぶどう栽培の伝統的農法」が代表一覧表に登録されたこと https://ich.unesco.org/en/RL/traditional-agricultural-practice-of-cultivating-the-vite-ad-alberello-head-trained-bush-vines-of-the-community-of-pantelleria-00720
- チェラスオーロ・ディ・ヴィットーリアがネロ・ダーヴォラとフラッパートの組み合わせであること https://terra.regione.sicilia.it/wp-content/uploads/2023/04/TERRITORI-VINI-DI-SICILIA-2023.pdf
- カターニアの食(ペスケリア、アランチーニ、パスタ・アッラ・ノルマ、グラニータとブリオッシュ)、ブロンテのピスタチオ https://www.visitsicily.info/en/attrazione/mount-etna/ https://thecuriousappetite.com/2018/05/30/sicily-food-wine-travels/
- 国内のイタリアワイン専門店の在庫(2026年9月4日調査)。ネロ・ダーヴォラとエトナ・ロッソの価格帯 https://www.tuscany.co.jp/