VINO Storia

ワインのお話

イタリアワインとは——産地も品種も多すぎる、その理由

この記事でわかること

  • イタリアワインの産地と品種が、どれくらい多いのか
  • なぜこれほど多くなったのか
  • ラベルの DOCG・DOC・IGT が何を表しているのか
  • 20の州を、どう大づかみにすればいいか
  • 最初の1本をどう選ぶか

ワイン売り場でイタリアの棚の前に立つと、聞いたことのない地名とぶどうの名前が並んでいます。フランスの棚のように「ここから覚えればいい」という手がかりが、なかなか見つかりません。

これは選ぶ側の問題ではありません。イタリアワインは、実際に多いのです。


どれくらい多いのか

ラベルに書かれる産地の呼び名——原産地呼称は、500を超えます。国の登録簿に載っている醸造用のぶどうの品種は、600ほど。そして20ある州の、すべてでワインがつくられています。

一つの州だけを見ても細かいままです。トスカーナには、いちばん条件の厳しい区分の呼称が11、その下の区分が41あります。州の名前をひとつ知っただけでは、まだ何も絞れていないということです。

生産量でも上位です。2025年の見通しでは、イタリアが世界でいちばん多くのワインをつくる国になりました。ただしこれは毎年そうだというわけではなく、2023年は雨と病害でイタリアの収穫が大きく減り、フランスが上に立っています。年によって入れ替わる種類の順位です。

全部を覚えることはできません。覚える必要もありません。多さの理由が分かると、棚の見え方が変わります。


南北に長い、という条件

イタリアは、細長い国です。

北の端はアルプスの谷にあり、フランスのブルゴーニュとほとんど同じ緯度です。いっぽう南の端、シチリアの沖に浮かぶパンテッレリーア島は、シチリア本島よりもアフリカ大陸に近い位置にあります。

同じ国の中に、雪の降る山のワインと、乾いた島のワインが並んでいるということです。

さらに標高が効きます。シチリアは南の島ですが、エトナ火山の中腹には標高900メートルに達する畑があり、夏でも夜は冷え込みます。同じ州の海沿いとは、まったく別の気候です。

南か北かだけでは決まらない、というのがイタリアの厄介なところであり、面白いところでもあります。


国になったのが、150年ほど前

ここが、多さの根っこです。

イタリアという国ができたのは1861年です。それ以前、この半島にはいくつもの別々の国がありました。北にはサヴォイア家の王国、中部には教皇が治める領地、南にはナポリを都とする王国。言葉も、料理も、農業も、地方ごとに分かれていました。

しかも1861年で終わったわけではありません。ヴェネツィアが加わったのは1866年、ローマが加わったのは1870年です。いまの形になってから、まだ150年あまりしか経っていません。

統一が遅かったことは、ワインにそのまま残りました。ぶどうの品種が、地方ごとに違うまま生き残ったのです。

国の登録簿にある醸造用の品種は600ほど。そのうち「イタリア固有」と呼べるものが何種あるかは、資料によって350とも400以上とも書かれていて、ひとつの数字に決まりません。何を固有と見なすか、数え方が違うためです。それでも、他の国と比べて桁が違うことは確かです。

たとえば、シチリアのエトナではネレッロ・マスカレーゼ(Nerello Mascalese)。ヴェネトのアマローネではコルヴィーナ(Corvina)。リグーリアのチンクエ・テッレではボスコ(Bosco)。どれもその土地から広がらず、その土地でだけ主役を務めています。

産地の数が多いのも、同じ理由です。 谷ひとつ、村ひとつの単位で違うワインをつくってきた歴史が、そのまま呼称の細かさになっています。

もっとも、600の品種すべてに出会うわけではありません。ある資料は、イタリアのぶどう畑の面積の4分の3ほどが、80種あまりの品種で占められていると書いています。裾野は広いけれど、実際に棚に並ぶものはもっと少ない、ということです。


ラベルに書いてあること

DOCG、DOC、IGT。ラベルでよく見る三つの略語です。

これは品質の等級ではありません。どこで穫れたぶどうを、どの品種から、どうつくったか——その決まりを満たしていることを示す、原産地の呼称です。

何を示すか
DOCG産地・品種・造り方が国の決まりで定められている。条件がいちばん厳しい
DOC同じ仕組みで、DOCGより条件がゆるやか
IGT産地の範囲が広く、決まりもゆるやか

日本の読者がつまずきやすいのは、ラベルに品種の名前が書いてあるとは限らないことです。「バローロ」も「キャンティ」も「アマローネ」も、ぶどうの名前ではなく産地や呼称の名前です。

裏を返せば、産地の名前をひとつ覚えると、品種と造り方がまとめてついてきます。 ラベルの「ボルゲリ」は、トスカーナの海沿いの決められた範囲で、決められた品種から、決められた熟成を経たものだけが名乗れます。産地名は、その約束を一語で示す看板です。

イタリアワインは、そういう覚え方をする国です。

呼称の名前のうしろに、クラシコ(Classico)リゼルヴァ(Riserva)スペリオーレ(Superiore)といった語がつくこともあります。これも産地ごとの決まりで定義されています。

  • クラシコ — その産地の中でも、古くからの中心地でつくられたもの。アマローネのクラシコは5つの自治体に限られます
  • リゼルヴァ — より長い熟成を経たもの
  • スペリオーレ — 上乗せの条件がついたもの。ボルゲリでは2年以上の熟成、エトナの白ワインではミロという村の区域に限ること

同じ語でも、条件は呼称ごとに違います。 スペリオーレという語が、ある産地では熟成の長さを、別の産地では畑の場所を指しているわけです。ここは覚えるより、気になった1本で調べるほうが早いところです。


州をまず三つに分ける

いきなり20州を覚える必要はありません。まず三つに分けます。

— アルプスとポー川の平野。冷涼で、酸のあるワインが多い地域です。ピエモンテ、ヴェネト、ロンバルディア、フリウリ=ヴェネツィア・ジューリアなど。泡のワインもここに集まります。

中部 — なだらかな丘が続きます。サンジョヴェーゼ(Sangiovese)という赤ワイン用の品種が広く植わり、キャンティやブルネッロがここから出ます。トスカーナ、ウンブリア、マルケなど。

南と島 — 暑く乾いて、日照が強い地域です。かつては量を求められた土地ですが、いまは標高の高い畑や土着品種で知られるようになりました。プーリア、カンパーニア、シチリア、サルデーニャなど。

海沿いの急な斜面にへばりつくリグーリアのように、この三つに収まりきらない土地もあります。南の島でも、標高の高い畑なら北の産地のような酸のあるワインができます。南か北かより、その畑がどこにあるかのほうが効きます。


最初の1本をどう選ぶか

産地の名前をひとつ決めて、そこから入るのがいちばん早いです。 品種から入ると600種を相手にすることになりますが、産地から入れば、その土地の話とワインの味が一本につながります。

当サイトで扱っている産地なら、こんな入口があります。

  • 海の料理と合わせる白ワインなら、チンクエ・テッレ。崖に石垣を積んだ畑から生まれます
  • 炭火で焼いた肉に合う赤ワインなら、ボルゲリ。トスカーナでボルドーの品種を使う産地です
  • 濃厚な赤ワインを一杯だけ、ならアマローネ。ぶどうを四か月干してつくります
  • 色の淡い、酸のある赤ワインならエトナ。火山の斜面で育ちます

価格は、産地の名前がついたものなら3,000円台から5,000円あたりが取り組みやすい範囲です。同じ産地でも上位の区分になると1万円を超えます。

はじめの1本は、ラベルの産地名を読めるようになるための1本だと思って選んでください。そこから先は、土地の数だけ道があります。

棚で迷ったら、ラベルでいちばん大きく書かれている名前を覚えて帰ってください。多くの場合それが産地の名前で、その一語から土地と品種と造り方までたどれます。


出典

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二次情報