VINO Storia

ワインのお話

エトナのワイン——火山の斜面で育つ、シチリアらしくない赤ワイン

この記事でわかること

  • エトナ(Etna)がどんな場所で、なぜ「シチリアらしくない」味になるのか
  • 畑を「コントラーダ(contrada)」という区画名で呼ぶ慣習のこと
  • 赤ワインと白ワイン、それぞれどんな味わいなのか
  • 何と合わせて飲むと楽しいか、いくらぐらいで買えるのか
エトナ北側、パッソピシャーロのぶどう畑。奥に山並みが見える
エトナ北側、パッソピシャーロのぶどう畑。奥は谷をはさんだ向かいの山並みですNeil Weightman / CC BY 2.0Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

イタリアの南、シチリア(Sicilia)のワインと聞いて思い浮かべる味と、エトナのワインはたぶん一致しません。

エトナの赤ワインは、色が淡いのです。酸が高く、アルコールも南イタリアにしては控えめ。しばしば「ブルゴーニュのようだ」と言われます。産地の決まりを定めた文書は、この一帯をひとことで言い表しています。

島の中の島(un’isola nell’isola)。


火山の中腹に、ぐるりと畑がある

エトナはヨーロッパでいちばん高い活火山で、いまも噴煙を上げています。2013年に世界自然遺産に登録されていますが、登録の対象になっているのは人の住まない山頂部だけです。

ぶどう畑があるのは、その外側の中腹です。標高はおよそ300メートルから900メートル。高いところでは1,100メートルに達します。この高さのおかげで、シチリアにありながら夏でも夜は冷え込み、昼と夜の温度差が大きくなります。収穫は10月の終わりから、遅いところでは11月まで続きます。シチリアでいちばん遅い産地です。

畑の土は、溶岩が風化したものです。黒くて軽く、水はけがよく、ミネラル分に富んでいます。斜面には、この黒い溶岩石を積んだ石垣が段々畑を支えています。モルタルを使わない空積みで、リグーリアのチンクエ・テッレの段々畑にも共通する積み方です。

産地の輪郭も変わっています。境界の一部が、過去の噴火で流れた溶岩の縁で引かれているのです。18世紀から20世紀にかけての溶岩流が、そのまま産地の線になっています。火口を頂点とする三角形の土地のうち、呼称が関わるのは中腹の帯だけなので、産地は火山を囲む半円形で、西側だけが開いた形になります。


畑を「区画」の名前で呼ぶ

エトナのワインを見ていると、ラベルに聞き慣れない地名が添えられていることがあります。これがコントラーダ(contrada)、畑の区画の呼び名です。ブルゴーニュのクリュに近い考え方といえます。

これは愛称や慣習ではなく、産地の決まりに根拠があります。名乗ってよい区画が一覧として定められていて、その数は130あまり。ただし産地にまたがる20の自治体のうち、区画名を持つのは9つだけです。しかもカスティリオーネ・ディ・シチリアという一つの自治体だけで、全体の3分の1を超えます

コントラーダという土地の区分そのものは、以前からこの山にありました。畑や集落を指す呼び名として使われていたものが、ワインの名前として前に出てきたのが2000年前後で、名乗ってよい区画の一覧が決まりに収められたのは2011年です。

2000年前後、トスカーナから来たアンドレア・フランケッティ、イタリアワインの輸出で知られたマルク・デ・グラツィア、ベルギー出身のフランク・コーネリッセンが、相次いでこの山にワイナリーを構えます。ブルゴーニュを手本に、区画ごとの違いを表現しようとした人たちでした。2008年にはフランケッティが「コントラーダ・デッレトナ」という生産者の合同試飲会を始め、これがエトナ最大のワインイベントに育ちます。


淡い赤ワインと、酸のある白ワイン

エトナ・ロッソ(Etna Rosso)の主役は、ネレッロ・マスカレーゼ(Nerello Mascalese)という土着の黒ぶどうです。8割以上を占めることが条件で、残りにネレッロ・カプッチョ(Nerello Cappuccio)を加えます。

決まりの文書がこのワインに与えている言葉は、意外なほどそっけないものです。色は「ルビー、熟成でガーネットを帯びる」。香りは「強く、この土地らしい」。味は「辛口で、温かく、力強く、豊かで、調和がとれている」。淡いとも繊細とも書いていません。2014年の版でも、同じ文言のままです。

いまこのワインが語られるときの言葉は、だいぶ違います。ネレッロ・マスカレーゼは色の淡い赤ワインになる品種で、赤い果実の香りが立ち、酸が高く、渋みがやわらかい。ワイン誌はしばしば、ブルゴーニュのピノ・ノワールやピエモンテのネッビオーロと並べて説明します。

淡い色は、この品種そのものの性格です。決まりのうえでは、ネレッロ・マスカレーゼを8割以上使い、残りにネレッロ・カプッチョと、シチリア州で認められた香りの穏やかな白ぶどうを1割まで加えられます。実際に何をどれだけ使うかは造り手によって違うので、色の濃さも一様ではありません。

エトナ・ビアンコ(Etna Bianco)は、カリカンテ(Carricante)という白ぶどうが主役で、6割以上を占めることが条件です。色は淡い麦わら色で、香りは繊細。味は辛口で、酸がしっかりしています。決まりのうえでも、白ワインに求められる酸の下限は赤ワインより高く設定されています。

ミロ(Milo)という村の区域でつくられたものだけは「スペリオーレ(Superiore)」を名乗れます。ひとつの村の名前が、上位区分の条件になっている珍しい例です。

泡もあります。ただしこの産地のスプマンテは、瓶の中で二次発酵させる方法だけが認められています。タンクでつくったものは「エトナ」を名乗れません。決まりの文書によれば、1800年代の終わりにはすでに、地元の男爵がこの製法で泡をつくっていたそうです。

同じ列に黒ぶどうと白ぶどうが混じって植わったエトナの畑
同じ列に、黒ぶどうと白ぶどうが混じって植わっています。エトナ・ロッソは、白ぶどうを1割まで加えられますNeil Weightman / CC BY 2.0Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

ピスタチオと、海の幸と

エトナの北西側の斜面には、ブロンテ(Bronte)という町があります。ここでとれる緑色のピスタチオはイタリアでも別格の扱いで、EUの原産地保護の対象になっています。菓子にも料理にも使われ、パスタのソースにもなります。

麓のカターニアは海の街です。魚市場ペスケリアには早朝から魚が並び、そのまわりに屋台や食堂が集まります。名物は、揚げた米のコロッケアランチーニ(arancini)、なすとリコッタを使ったパスタ・アッラ・ノルマ(pasta alla Norma)、そしてグラニータ(granita)をブリオッシュと一緒に食べる朝ごはん。ピスタチオ味のグラニータやジェラートも定番です。

エトナ・ロッソは、豚肉や鶏肉、きのこ、トマトを使った料理と合わせられます。日本で合わせるなら、鶏の香草焼き、きのこのパスタ、トマト煮込み、生ハムあたりでしょう。

エトナ・ビアンコは魚介と好相性です。白身魚のグリル、貝のパスタ、酢を使った前菜にもよく合います。

枝についたまま熟していくブロンテのピスタチオ
ブロンテのピスタチオ。枝についたまま熟していきますPaolo Galli / CC BY-SA 3.0Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

行くなら、買うなら

起点はカターニアです。空港があり、ローマやミラノから直行便で行けます。

エトナをめぐるなら「チルクムエトネア鉄道(Ferrovia Circumetnea)」が知られています。19世紀の終わりに開通した路線で、火山のふもとをぐるりと回りながら、溶岩の跡やぶどう畑、ピスタチオ畑のあいだを走ります。

ただし、全線を1本の列車で回れるとはかぎりません。区間の運休があると、途中から代替バスに乗り継ぐことになります。2026年9月4日の時点では、カターニア側の一部が地下鉄の延伸工事で運休していました。運行する区間と時刻は変わるので、訪ねる前に鉄道会社の公式案内で確認してください。

日本での入手ですが、調査時点(2026年9月4日)にイタリアワインの専門店で確認できた範囲では、エトナ・ロッソは2,500円台から見つかり、3,000円から6,000円あたりが中心でした。区画名(コントラーダ)を冠したものは1万円を超えます。エトナ・ビアンコは2,700円台からで、こちらも3,000円から7,000円あたりが中心です。

この産地は伸びています。認証されたワインの量は、2012年から2025年までの13年でおよそ5倍になりました。認証の件数はさらに増えていて、8倍を超えます。それでも申告されている畑の広さは1,400ヘクタールほどで、シチリア全体からすればごく小さいままです。産地としては1968年にシチリアで最初に認定された古株ですが、いまはDOCG——原産地呼称のなかで、より厳しい条件がつく区分——への移行を目指して申請を進めています。


出典

一次情報

  • シチリア州ブドウ・ワイン研究所(IRVO)掲載「Disciplinare di produzione della denominazione di origine controllata dei vini “ETNA”」2022年1月19日省令+2022年3月14日省令による訂正を反映した統合版。Allegato 1「Elenco menzioni geografiche aggiuntive」を含む。本文で「決まり」「文書」と述べているものはこれを指す。「島の中の島」の記述、20の自治体、溶岩流による境界、三角形の territorio と西に開いた半円形の産地、コントラーダの一覧(133件)、品種構成(ロッソはネレッロ・マスカレーゼ80%以上、ビアンコはカリカンテ60%以上)、赤に白ぶどう10%まで、白の総酸下限5.5g/l・赤5.0g/l、ミロのスペリオーレ、スプマンテの製法と1800年代末の記述、1968年のDOC認定の出典。官能の記述もここから——ロッソは「色=ルビー、熟成でガーネットを帯びる/香り=強く、この土地らしい/味=辛口、温かく、力強く、豊かで、調和がとれている」、ビアンコは「色=麦わら色、ときに金色の反射/香り=繊細で、この土地らしい/味=辛口、フレッシュ、調和がとれている」。2014年の版と同じ文言である https://www.irvos.it/wp-content/uploads/2021/08/Etna-2024.pdf
  • イタリア農業省 品種・原産地カタログ(catalogoviti)掲載の旧版生産規定(〜2014年3月7日省令) http://catalogoviti.politicheagricole.it/scheda_denom.php?t=dsc&q=2123

統計

  • Osservatorio dell’Istituto regionale del vino e dell’olio(IRVO)2026年8月19日発表。認証件数が2012年の79件から2025年の641件へ(+711%、8.1倍)、認証された量が9,426から46,152ヘクトリットルへ(+390%、4.9倍)、2025年の申告面積1,449ha、収穫量94,700キンタル。件数と量は別の指標であり、倍率も異なる https://askanews.it/2026/08/19/vino-doc-etna-certificazioni-cresciute-del-711-dal-2012-al-2025/

二次情報

価格

  • 国内のイタリアワイン専門店の在庫(2026年9月4日調査)。エトナ・ロッソ18点、エトナ・ビアンコ10点 https://www.tuscany.co.jp/