ネレッロ・マスカレーゼのワイン一覧
ネレッロ・マスカレーゼとは?
ネレッロ・マスカレーゼ(Nerello Mascalese)は、イタリア南端の島シチリアの東、活火山エトナの斜面で育つ黒ぶどうです。色が淡く透きとおり、酸と渋みのしっかりした辛口の赤ワインになります。エトナの赤ワインは、このぶどうを8割以上使ってつくります。

名前の「マスカレーゼ」は、「マスカリ(Mascali)の」という意味です。マスカリは、エトナの東の麓、カターニアの北にある町です。エトナのワインの決まりの文書は、この名前が「マスカリ伯領(Contea di Mascali)」から来ていて、そこがこのぶどうの生まれた土地か、少なくとも広まった中心だったのだろう、と書いています。
イタリア語版のウィキペディアによれば、マスカリ伯領は、海から火山のほうへ広がる土地を、カターニアの司教が領主として治めたものでした。1558年、司教は住民に土地を安い地代で貸し出し、森や荒れ地だった一帯は、海から山まで畑に変わっていったといいます。決まりの文書は、18世紀にマスカリのワインがマルタへ送られていたこと、1869年の書物がこの伯領の名高いワインに触れていることを記しています。ただし、ネレッロ・マスカレーゼという名前がエトナの麓のぶどうとして文書に出てくるのは、1839年が最初です。
マスカリの町は、1928年11月6日、エトナの中腹から流れ下った溶岩に、ほとんどすべて埋まりました。いまの町は、そのあと1930年代に建て直されたものです。マスカリはいまも、エトナのワインの産地にかかる20の自治体の一つです。

どこで育てられているか
アデレード大学のワイン経済研究センターがまとめた品種別のデータベースでは、イタリアのネレッロ・マスカレーゼの畑はおよそ3,000ヘクタールです。EUの統計局(Eurostat)の2020年の値で、2010年もほぼ同じでした。同じシチリアのネロ・ダーヴォラの7分の1ほどです。
イタリアのワイン情報サイト、クアットロカリチ(Quattrocalici)は、エトナの北・北東・東の斜面、標高400メートルから1,000メートルほどをいちばんの産地とし、島の北東の端のメッシーナ(Messina)のまわりにもあると書いています。シチリアの外ではごくまれだとしています。
エトナでもメッシーナでも、このぶどうと一緒に植えられてきたのが、名前のよく似たネレッロ・カプッチョ(Nerello Cappuccio)です。カプッチョは頭巾のことで、クアットロカリチは、房が葉にくるまれたように見えることから来た名前だと説明しています。ネレッロ・マンテッラート(Nerello Mantellato)とも呼ばれます。
二つは、名前は似ていても別の品種です。国の品種登録簿を引くと、ネレッロ・カプッチョの公式の別名として、カリニャーノ(Carignano)とボヴァーレ・グランデ(Bovale Grande)が並んでいます。どちらも登録簿に別の名前で載っている品種で、登録簿の上では、この三つは同じぶどうとして結ばれています。ネレッロ・マスカレーゼのほうには、公式の別名がひとつもありません。
ネレッロ・マスカレーゼが主役のワイン
主な呼称と、そのワインに使うネレッロ・マスカレーゼの割合です。DOCは、産地や造り方が国の決まりで定められたイタリアの原産地呼称です。
| ワイン | 産地 | ネレッロ・マスカレーゼの割合 |
|---|---|---|
| エトナ(Etna、DOC)の赤ワイン・ロゼワイン | カターニア県 | 80%以上 |
| エトナ(DOC)のスプマンテ | カターニア県 | 80%以上 |
| ファーロ(Faro、DOC) | メッシーナ市 | 45〜60% |
| シチリア(Sicilia、DOC)のネレッロ・マスカレーゼ | 島の全域 | 85%以上 |
エトナの赤ワインとロゼワインは、残りにネレッロ・カプッチョを2割まで、香りの穏やかな白ぶどうを1割まで加えられます。泡のワイン(スプマンテ)はロゼに仕立てるほか、黒ぶどうの皮の色を移さずに、色のない泡にすることもできます。エトナの決まりの文書によれば、ネレッロ・マスカレーゼをそうして仕込んだ泡は、1980年代からいくつかの造り手がつくってきました。
ファーロは、メッシーナ市の中でだけ名乗れる赤ワインです。畑は、シチリアとイタリア本土を隔てるメッシーナ海峡に面した丘と海沿いにあり、イオニア海の側に30キロあまり、ティレニア海の側に20キロあまり続いています。ネレッロ・マスカレーゼに、ネレッロ・カプッチョを15〜30%、ノチェーラ(Nocera)という土地の黒ぶどうを5〜10%合わせ、1年以上熟成させてから出します。

名前は、海峡の北の端の岬プンタ・ファーロ(Punta Faro)から来たとも、この丘に入植した古代ギリシャの人々の名から来たともいわれる、とファーロの決まりの文書は書いています。19世紀には、ブルゴーニュやボルドーのワインに混ぜるため、フランスの各地へ盛んに送られていたそうです。メッシーナ県の畑は19世紀の終わりに4万ヘクタールに達しましたが、同じ文書が書かれた時点では、ワイン用のぶどうの畑は900ヘクタールほどでした。
どんなワインになるか
クアットロカリチによれば、ネレッロ・マスカレーゼのワインは、透きとおったルビー色で、年とともにガーネットへ移っていきます。粒は皮が厚く、渋みのもとになるタンニンはとても多い一方、色素は意外なほど少ないとしています。ネッビオーロについて同じサイトが書いている性質と同じ組み合わせです。

香りは、さくらんぼ、ざくろ、スグリ、しおれかけたバラに、タイムやローズマリーのような香草、ホワイトペッパー、火山灰、黒鉛、いぶしたような香りが重なります。口に含むと引き締まっていて、酸が生き生きとし、渋みはきめが細かく、余韻が長く続きます。熟成すると、革や森の下草、砂糖漬けの柑橘の香りが出てくるとしています。
一緒に使われるネレッロ・カプッチョは、同じサイトによれば、色がより濃く、渋みがやわらかです。エトナで二つを合わせると、マスカレーゼの硬さをカプッチョが和らげると説明しています。ファーロの決まりの文書も、ネレッロ・マスカレーゼの性格を「角ばった(spigoloso)」と書き、メッシーナではノチェーラとネレッロ・カプッチョがそれを和らげて、丸みのある味になるとしています。そのファーロの色はルビーで、熟成するとレンガ色に傾きます。香りは繊細で長く続き、味わいは辛口で、重すぎない中くらいの飲みごたえです。
ネレッロ・マスカレーゼに合わせる食事
イタリア政府観光局は、シチリアのワインを紹介するなかで、ネレッロ・マスカレーゼを肉料理に合わせるワインとして挙げています。
同じ観光局は、島の北東のワイン産地をめぐる旅の案内で、ファーロをメッシーナの料理と合わせるよう勧めています。挙げているのは、狩猟でとった鳥や獣の肉(ジビエ)、なす、熟成させたチーズです。シチリアの県ごとに違う田舎風のピッツァも紹介していて、メッシーナのものは、トゥーマ(tuma)というチーズをのせたフォカッチャです。
エトナの麓、カターニアの料理はエトナの記事で紹介しています。
日本の食卓で試すなら、鴨や鹿のロースト、焼きなすやなすのグラタン、熟成したハードタイプのチーズが、地元の料理に近い組み立てです。
