Vino Storia

ワインのお話

マルケのワイン

この記事でわかること

  • マルケ(Marche)がどんな地形の州で、なぜ産地が谷ごとに分かれているのか
  • ヴェルディッキオという白ぶどうと、モンテプルチャーノの赤ワイン
  • 覚えておきたい産地の名前と、何と合わせて飲むか
白い崖の岬が海に落ちる手前に、砂浜と海水浴の人々が広がる。モンテ・コーネロとシローロの浜
アドリア海に突き出たコーネロ岬と、その麓のシローロの浜Francesco Gasparetti / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

イタリアの中部、アドリア海に面した州です。州都は港町のアンコーナ(Ancona)で、広さは1万平方キロメートルに届きません。州の名前が複数形なのは、10世紀にこの一帯へ「マルカ」と呼ばれる辺境の区域がいくつも置かれたためです。ゲルマン語で境の印を意味する marka から来た言葉です。

西にはアペニンの山が連なり、南のモンテ・ヴェットーレは2,500メートル近くあります。東はアドリア海です。イタリアの百科事典トレッカーニ(Treccani)は、この州には平野がなく、土地の3分の2が丘に分類されると書いています。


山から海まで、川が谷を刻む

山の稜線から海までの距離が短く、そのあいだを川が何本も下っています。百科事典はこの地形を「櫛の歯のような谷」と呼び、谷に沿って進むのはたやすいけれども、谷から谷へ越えるのは難しい、と続けています。ロッソ・ピチェーノ(Rosso Piceno)の生産規定も、アペニンとアドリア海のあいだを十本の川が短い距離で流れ下る、と書いています。マルケの産地は、この谷ごとに分かれています。

同じ規定によれば、丘の帯では、アドリア海が浅くて冷たい内海であるために、海が気候をやわらげる働きは小さいとされます。海の影響を受ける海沿いの帯でも、夏は暑く、冬は寒いと書かれています。

紅葉したぶどう畑が帯になってなだらかな丘を覆い、遠くに雪をかぶった山並みが見える
11月、州の南のピチェーノの丘。色づいたぶどう畑の向こうに、シビッリーニの山並みが見えますLuigi936 / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

ヴェルディッキオという白ぶどう

この州でいちばん名前の通ったワインは、ヴェルディッキオ(Verdicchio)という白ぶどうからつくる白ワインです。

原産地呼称の団体の年次資料によれば、2025年3月の時点でマルケにはDOCGが5つ、DOCが15あります。DOCは産地と品種と造り方が国の決まりで定められた原産地呼称で、DOCGはそのうち条件のいちばん厳しい区分です。5つのDOCGのうち2つが、ヴェルディッキオを長く寝かせたリゼルヴァで、エージノ(Esino)川の下流のカステッリ・ディ・イエージと、上流のマテリカのものです。

決まりでは、どちらの産地でもヴェルディッキオを85パーセント以上使います。色は淡い麦わら色、香りは繊細で、味は辛口です。後味に、心地よいほろ苦さが残ります。リゼルヴァはどちらも18か月以上寝かせ、カステッリ・ディ・イエージのほうは緑を帯びた黄金色になって、熟した黄色い果実や柑橘、蜂蜜の香りが出てきます。

売り物として広く知られるようになったのは1950年代のはじめです。カステッリ・ディ・イエージの規定によれば、二人の生産者が醸造所を建て、アンフォラ(古代の壺)をかたどった瓶で売り出しました。

ヴェネト州のトレッビアーノ・ディ・ソアーヴェは、DNAの分析ではこのぶどうと同じ品種でした。名前はトレッビアーノでも、トスカーナのものとは別のぶどうです。


谷ごとに分かれた産地

覚えておきたいのは、次の五つです。

  • カステッリ・ディ・イエージ(Castelli di Jesi) — エージノ川の下流の丘
  • マテリカ(Matelica) — 同じ川の上流。内陸の谷
  • コーネロ(Cònero) — アドリア海に突き出た岬
  • ロッソ・ピチェーノ(Rosso Piceno) — 州の北から南まで広がる赤ワイン
  • セッラペトローナ(Serrapetrona) — 山に近い区域の発泡ワイン

カステッリ・ディ・イエージは、海からおよそ20キロの丘に広がる24の村です。「カステッリ」は城のことで、昔からイエージ(Jesi)の町と結びついてきた村々を指します。ワイン統計サイトが引く ISMEA(農業食品市場サービス機関)の集計では、2023年に州の呼称でいちばん生産量が多かったのが、ここのヴェルディッキオでした。

マテリカの谷だけは向きが違い、エージノ川は山並みと海岸線に平行して北へ流れます。規定はこの区域を「はっきりと内陸で、海の環境と影響から遠い」と書き、冬は厳しく冷え込み、夏は暑くなるとしています。ワインは骨格がしっかりしていて味もしっかりあり、規定はその理由をこの大陸的な気候に求めています。後味にはアーモンドが残ります。

コーネロは、海に突き出た石灰岩の岬と、その後ろの丘です。赤ワインはモンテプルチャーノを85パーセント以上使い、色はルビー、味は辛口で厚みがあります。規定はその味をサピド(sapido)とも書いています。日本語にしにくい語で、味がしっかりある、という意味で使われます。DOCGの「コーネロ」は2年以上寝かせ、ラベルに必ず「リゼルヴァ」と入ります。寝かせる期間の定めがないDOCは、ロッソ・コーネロ(Rosso Cònero)です。

ロッソ・ピチェーノは、モンテプルチャーノを35〜85パーセント、サンジョヴェーゼを15〜50パーセント使う赤ワインです。範囲は北のメタウロ川から、アブルッツォ州との境のトロント川までで、ロッソ・コーネロの区域だけが抜かれています。

セッラペトローナは、海から60キロほど内陸の小さな区域です。黒ぶどうのヴェルナッチャ・ネーラ(Vernaccia nera)を使い、ぶどうの4割以上を1月まで干してから搾って、先に仕込んだワインに合わせます。規定は、こうして三度の発酵を経ると書いています。色はガーネットからルビーで、辛口と甘口があります。

グラスに注がれた赤い発泡ワイン。縁に細かな泡が立っている
グラスに注いだヴェルナッチャ・ディ・セッラペトローナ。黒ぶどうからつくる発泡ワインですGiacomo Alessandroni / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

ほかに、オッフィーダ(Offida)のペコリーノやパッセリーナ(Passerina)の白ワイン、ラクリマ・ディ・モッロ・ダルバ(Lacrima di Morro d’Alba)といった名前もあります。


マルケのワインに合わせる食事

港町のアンコーナでは、ブロデット(brodetto)という魚のスープや、干した鱈を使うストッカフィッソ・アッランコニターナ(stoccafisso all’anconitana)が食べられています。コーネロの海岸には、養殖せずに採る天然のムール貝、モッショリ(moscioli)があります。

南のアスコリ・ピチェーノ(Ascoli Piceno)には、オリーヴェ・アッラスコラーナ(olive all’ascolana)があります。テネラ・アスコラーナという品種のオリーブに、ひき肉と卵、パルミジャーノ、ナツメグを合わせた具を詰めて揚げ、熱いうちに食べます。内陸のマチェラータでは、7枚の生地にベシャメルとミートソースを重ねるヴィンチスグラッシ(vincisgrassi)が知られています。

白い器に盛った、衣をつけて揚げた丸いオリーブ。二つは切り口が見え、緑のオリーブの中に肉の詰め物が入っている。脇にレモンと白ワインのグラス
オリーヴェ・アッラスコラーナ。オリーブに肉の具を詰めて揚げますManuela Zangara / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons

ワイン誌チヴィルタ・デル・ベーレ(Civiltà del bere)は、オリーヴェ・アッラスコラーナにはカステッリ・ディ・イエージのヴェルディッキオを、干し鱈にはマテリカのものを勧めています。2016年には州の保護協会が、2年以上寝かせたコーネロの赤ワインを、ストッカフィッソやモッショリに合わせる催しを開きました。

日本の食卓で試すなら、ひき肉を詰めた揚げもの、干し鱈の煮込み、魚介のスープが、地元の料理に近い組み立てです。


行くなら、買うなら

起点は州都のアンコーナです。内陸のウルビーノ(Urbino)の歴史地区は、1998年にユネスコの世界遺産に登録されました。南にはモンティ・シビッリーニ国立公園が広がり、海沿いのコーネロのリヴィエラには、岩と緑に囲まれた浜が並びます。

調査時点(2026年9月13日)にイタリアワインの専門店1店で確かめたところ、カステッリ・ディ・イエージのヴェルディッキオは1,200円台からあり、2,000円から3,000円あたりが中心でした。マテリカは2,400円台から、ロッソ・コーネロは2,300円台から、ロッソ・ピチェーノは1,400円台からです。ヴェルナッチャ・ディ・セッラペトローナは見当たりませんでした。

谷による違いを確かめるなら、カステッリ・ディ・イエージとマテリカのヴェルディッキオを1本ずつ選ぶと、どちらも3,000円前後までで揃います。