VINO Storia

ワインのお話

リグーリアのワイン——平らな土地がない州で、なにが生まれたか

この記事でわかること

  • リグーリア(Liguria)がイタリアのどこにあって、どんな地形の州なのか
  • なぜこの州にはDOCGがひとつもないのか
  • ヴェルメンティーノ、ピガート、ロッセーゼという品種のこと
  • 何と合わせて飲むと楽しいか、いくらぐらいで買えるのか
モンテロッソの斜面に石垣で刻まれた段々畑。すぐ下に海が見える
モンテロッソの斜面。石垣で刻まれた帯が、海のすぐ上まで続きますDV / CC BY-SA 4.0Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

イタリアの北西、フランス国境からトスカーナとの境まで、地中海に沿って弓なりに伸びる細長い州がリグーリアです。州都はジェノヴァ。海運と交易で栄えた街です。

地図で見ると、海岸線に沿った細い帯にしか見えません。実際そのとおりで、背後にはすぐアペニン山脈とアルプスの端が迫っています。平らな土地が、ほとんどありません。

海沿いは東西に分かれていて、ジェノヴァから西をリヴィエラ・ディ・ポネンテ(Riviera di Ponente=日が沈む側)、東をリヴィエラ・ディ・レヴァンテ(Riviera di Levante=日が昇る側)と呼びます。西は花の栽培とオリーブ、東は入り江と漁港。同じ州でも、東と西で顔が違います。 ワインの品種も、この東西で分かれます。


畑をつくる場所がない

この州でぶどうを植えられるのは、海に落ちていく斜面だけです。そこで人は、石を積んで水平な帯をつくり、土を入れて畑にしてきました。段々畑です。

有名なのはチンクエ・テッレの石垣ですが、同じことは州の西の端まで続いています。州のワイン生産は「英雄的な栽培(viticoltura eroica)」と呼ばれることがあります。機械が入らず、収穫も運搬も人の手に頼るためです。

結果として、量が出ません。リグーリアのワインは、州全体でも年におよそ500万本とされています。イタリア全体の生産量からすれば、ほとんど誤差のような数字です。

日本で見かけないのは、知られていないからではなく、出回る量がそもそもないからです。


DOCGがひとつもない州

原産地呼称の数を見ると、この州の性格がはっきりします。

2025年3月の時点で、リグーリアにあるのはDOCが8つ、IGTが4つ。条件のいちばん厳しいDOCGは、ひとつもありません。 20の州のうち、DOCGを持たない州は少数派です。

これは品質が低いという意味ではありません。DOCGは申請と審査を経てつくられるもので、まとまった量と組織がなければ手続き自体が進みません。小さく分かれた産地が多いこの州では、そこに至っていない、というのが実際のところです。

ひとつ、注意しておきたいことがあります。8つのDOCのうちコッリ・ディ・ルーニ(Colli di Luni)は、リグーリアとトスカーナにまたがっています。 州の境目と呼称の範囲は、必ずしも一致しません。


白ワインが主役の州

リグーリアは、白ワインの州です。

主役はヴェルメンティーノ(Vermentino)。柑橘とハーブの香りがあり、塩気を感じる辛口の白ワインになります。州の東半分、レヴァンテと呼ばれる側に多く植わっています。

西半分のポネンテでは、ピガート(Pigato)が中心です。ヴェルメンティーノと近い関係にある品種で、こちらのほうが厚みのある味わいになるとされます。

チンクエ・テッレでは、また別のボスコ(Bosco)という品種が主役を務めます。ぶどうを干してつくる甘口ワイン「シャッケトラ」も、この土地のものです。

赤ワインが無いわけではありません。ロッセーゼ(Rossese)という土着の品種があり、フランス国境に近いドルチェアックアの村の名前を冠した呼称になっています。ばらやすみれ、フサスグリのような香りのある、淡い色の赤ワインです。

コッリ・ディ・ルーニのヴェルメンティーノ。グラスに注いだ白ワインとボトル
コッリ・ディ・ルーニのヴェルメンティーノ。州の東端でつくられる白ワインですFermented Thoughts / CC BY 2.0Wikimedia Commons

覚えておきたい四つの名前

  • チンクエ・テッレ — 五つの村が並ぶ海岸。辛口の白ワインと、干したぶどうの甘口。記事はこちら
  • リヴィエラ・リグレ・ディ・ポネンテ — 州の西半分を広く覆う呼称。ピガートとヴェルメンティーノ
  • ロッセーゼ・ディ・ドルチェアックア — フランス国境に近い山あい。州を代表する赤ワイン
  • コッリ・ディ・ルーニ — 州の東端。トスカーナにまたがる

ほかにコッリーネ・ディ・レヴァント、ゴルフォ・デル・ティグッリオ=ポルトフィーノなどがありますが、まずはこの四つで足ります。

呼称の全体像も見ておきます。リグーリアの8つのDOCは、東から西へこう並びます。

呼称場所
コッリ・ディ・ルーニ州の東端。トスカーナにまたがる
コッリーネ・ディ・レヴァントチンクエ・テッレの東隣
チンクエ・テッレ/チンクエ・テッレ・シャッケトラ五つの村の海岸
ゴルフォ・デル・ティグッリオ=ポルトフィーノポルトフィーノの入り江
ヴァル・ポルチェーヴェラジェノヴァのすぐ内陸
リヴィエラ・リグレ・ディ・ポネンテ州の西半分を広く覆う
ポルナッシオ/オルメアスコ・ディ・ポルナッシオ内陸の山あい
ドルチェアックア/ロッセーゼ・ディ・ドルチェアックアフランス国境に近い山あい

8つのうち5つが、村や入り江の名前です。 それぞれの範囲は狭く、生産量も多くありません。この細かさが、そのままこの州の地形を映しています。


バジルと、魚と

リグーリアの食は、海と山のあいだにあります。

いちばん知られているのはペースト・ジェノヴェーゼ(pesto genovese)でしょう。バジル、松の実、にんにく、チーズ、オリーブオイルをすりつぶしたソースです。ジェノヴァの名を冠したこのソースは、いまや世界中で食べられています。

ここにも地形が効いています。平地がないぶん、この州は背の低い作物に向いてきました。バジル、オリーブ、柑橘。畑を広く取れない土地で、狭い面積から価値のあるものを出す——ワインと同じ理屈です。

ほかに、ひよこ豆の粉を焼いたファリナータ(farinata)、オリーブオイルをたっぷり使ったフォカッチャ(focaccia)。海沿いですから、アンチョビやいわしなどの小さな魚もよく食卓に出ます。

ヴェルメンティーノやピガートの白ワインは、これらのどれとも合わせられます。バジルのソースにも、揚げた小魚にも、フォカッチャにも。日本で合わせるなら、白身魚のカルパッチョ、あさりのパスタ、しらす、天ぷらあたりでしょう。

ロッセーゼの赤ワインは色も渋みも軽いので、少し冷やして鶏肉や豚肉に合わせるという手もあります。

大理石の乳鉢ですりつぶしたペースト・ジェノヴェーゼ
大理石の乳鉢ですりつぶしたペースト・ジェノヴェーゼAlfonsoLucifredi / CC BY-SA 4.0Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

行くなら、買うなら

ジェノヴァが起点です。ミラノから鉄道で1時間半ほど。そこから東へ行けばチンクエ・テッレやポルトフィーノ、西へ行けばサンレモやドルチェアックアの方面へ向かいます。海沿いを鉄道が一本で結んでいるので、車がなくても回れます。トンネルと入り江が交互に現れる路線で、車窓そのものが目的になります。

日本での入手は、正直なところ簡単ではありません。調査時点(2026年9月4日)にイタリアワインの専門店で単品の在庫を確認できたリグーリアの白ワインは2点だけで、3,100円台と4,700円台でした。相場と呼べるだけの数がありません。 扱う店そのものが限られます。

はじめの1本には、ヴェルメンティーノが向いています。この州の白ワインがどういうものかが、いちばんよく分かります。見つけたときに買うくらいの構えで、ちょうどよい州です。


出典

一次情報

二次情報