奥野田ワイナリーとは?
奥野田ワイナリー(Okunota Winery)は、山梨県甲州市塩山(えんざん)の牛奥(うしおく)にある小さなワイナリーです。会社の名前は奥野田葡萄酒醸造(おくのたぶどうしゅじょうぞう)で、甲府盆地の東の縁、かつての奥野田村の一帯にあります。南へ下るとワインの町として知られる勝沼で、自社の畑のひとつは勝沼を見下ろす高台にあります。
もとは、近くの農家が育てたぶどうを持ち寄ってワインを仕込む醸造場でした。山梨県の観光サイトは、その始まりを1962年(昭和37年)としています。農家の高齢化と担い手不足で、醸造場をどう引き継ぐかを探していたところへ話が届いたのが、当時勝沼の老舗ワイナリーで働いていた中村雅量です。26歳で会社を引き継ぎ、1989年(平成元年)に新しく始めました。
醸造を学んで引き継いだ中村は、その後、ぶどうを育てるところへ戻っていきます。公式サイトは「ワイン造りは質の高い葡萄から」という基本に立ち返り、栽培学を一から学んだと書いています。いまは甲州市内の4か所に、合わせて1.5ヘクタールの自社の畑を持っています。
甲府盆地の東の縁にある四つの畑
畑には、それぞれ昔からの地名が付いています。ワイナリーの東側の急な斜面にある「桜沢(さくらざわ)圃場」は標高500メートルほどの南西向きの斜面で、表土は平均15センチと薄く、その下は花崗岩の地山です。ここには1997年と1998年に苗から植えたシャルドネ(Chardonnay)が育ち、斜面の残りの部分では生食でもおなじみのデラウェア(Delaware)を育てています。100メートルほど離れた「長門原(ながとはら)圃場」は、公式サイトが「まるでスキー場のよう」と書く急斜面で、2001年にシャルドネを植えました。
ワイナリーから歩いて3分ほどの「日灼(ひやけ)圃場」は、四つのうちただ一つ平らな土地にある畑です。地名のとおり日当たりがよく、1996年にカベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)を植えました。ワイナリーツアーで案内されるのはこの畑です。いちばん遠い「神田(かんだ)圃場」は、勝沼を見下ろす標高450メートルほどの南向きの斜面で、メルロ(Merlot)とカベルネ・ソーヴィニヨンが植わっています。もとは段々畑だった尾根の上の土地で、土は花崗岩を含んだ赤みのある深い土ですが、尾根にあるぶん、ぶどうに向いたやや痩せた土になっていると公式サイトは説明しています。
山梨では、頭の高さに棚を張って房を下げる育て方が昔から広く使われてきました。奥野田のワイン用の品種はすべて、木を一列に並べて針金で枝を支える「垣根」で育てていて、棚で育てているのはデラウェアだけです。垣根の列はすべて真南に向け、垣根の両面に一日を通して同じように日が当たるようにしているといいます。
醸造場から歩いて2分のところには、三方を土に囲まれたワインセラーがあります。公式サイトによれば、一年を通して10〜15度ほどに保たれるので空調をほとんど使わずにすみ、瓶と小さな樽で3万〜4万本分のワインが熟成しています。
歩み
農家が集まって醸造場を持ち、自分たちのぶどうでワインを造るやり方は、甲府盆地の東部(峡東地域)で明治のころから続いてきたものです。文化庁が日本遺産に認定した「葡萄畑が織りなす風景」の物語は、明治の中ごろに勝沼の農家が組合をつくってワインの醸造を始め、冠婚葬祭だけでなくふだんからワインを飲むようになったことを伝えています。奥野田の醸造場も、そうした農家のワイン造りから始まりました。
1989年に引き継いだあと、最初に植えた自社の畑が日灼圃場のカベルネ・ソーヴィニヨン(1996年)です。ぶどうを育てるための農業生産法人「夢郷葡萄研究所」を設け、桜沢、神田、長門原と少しずつ畑を増やしていきました。この研究所は2012年に奥野田葡萄酒醸造に統合されています。
日灼圃場では、2008年から収穫のイベントや畑のオーナー制度を始めました。いまの「奥野田ヴィンヤードクラブ」は、会員が冬の剪定から9月の収穫まで、座学を聞いたうえで畑の作業を一緒に行う集まりで、毎年12月から1月ごろに会員を募っています。
2020年まで醸造場として使っていた建物は、2022年にショップとサロンに改装されました。造りの場は新しい醸造場に移り、設備も入れ替えています。山梨県の観光サイトは、オーナー夫妻が時間をかけてテイスティングを手伝ってくれると紹介しています。
代表的なワイン
公式サイトは、自社の畑を中心に、地域で育てられた糖度の高いぶどうだけを使い、素材の味わいを生かしたワインを造っていると書いています。
ワインヴィーナス(Wine Venus)は、自社の畑のぶどうだけでつくるシリーズです。桜沢シャルドネは、桜沢と長門原の畑のシャルドネを樽で発酵させ、底に沈んだ酵母をかき混ぜながら半年ほど一緒に置いてから仕上げる白ワインです。ワイナリーのブログの紹介では、柑橘やハーブ、ミネラルの香りに、樽からのバニラやナッツ、キャラメルの香りが重なり、コクのある辛口とされています。メルロ&カベルネ・ソーヴィニヨンは、神田圃場の二つの品種を半分ずつ使い、オークの樽で12か月熟成させた赤ワインです。スミレやカシスの香りに、樽からのコーヒーやビターチョコレートの香りが溶け合い、渋みはしなやかだといいます。会社はこれをフラッグシップと呼び、渋みがほどけるまで少し時間がかかるとも書いています。山梨県の観光サイトも、この二つを代表銘柄に挙げています。
ラ・フロレット ハナミズキ・ブランは、甲州市と山梨市の契約農家が育てた甲州(こうしゅう)でつくる白ワインです。甲州は山梨で古くから育てられてきた日本のぶどうの品種で、ここでは果皮ごと漬け込んで果実の味を引き出し、ぶどうに付いている野生の酵母で低い温度で発酵させています。やや辛口で、ブログは春の野菜や山菜の天ぷらと合わせることをすすめています。
2026年4月には、自社の畑のシャルドネでつくるアネモネ シャルドネ 2025が出ました。収穫が少なかった年で、生産は350本です。白い花や柑橘を思わせる香りの、やや辛口の白ワインです。ブログに載った参考価格は税込3,300円でした。ほかの銘柄のいまの価格は、オンラインショップを開けなかったため調べられていません。

