ペコリーノのワイン一覧
ペコリーノとは?
ペコリーノ(Pecorino)は、イタリア中部のアドリア海側、マルケ州の南部とアブルッツォ州で育つ白ぶどうです。辛口の白ワインになり、泡のワインにも使われます。よく知られているのは、マルケ州の丘の町オッフィーダ(Offida)の名前を付けた「オッフィーダ・ペコリーノ」です。
イタリア語でペコリーノといえば、ふつうは羊(pecora)の乳でつくるチーズのことで、ペコリーノ・ロマーノ(Pecorino Romano)がよく知られています。この記事で扱うのは、同じ名前を持つぶどうと、そのワインです。
なぜぶどうが羊の名前で呼ばれるのかは、はっきりしていません。よく引かれるのは、山の牧草地にいる羊がこのぶどうの甘い実を好んで食べたから、という説です。イタリアのワインの専門サイトQuattrocaliciは、この説がシビッリーニ山地(Monti Sibillini)やラガ山地(Monti della Laga)で語られてきたと紹介したうえで、いまは別の説のほうが有力らしいとも書いています。アペニン山地の古いことばで「刺す」を意味するピコリーノ(picorino)が、酸が舌を刺すようなワインを指していて、それが名前になった、という説です。どちらの説も、確かめられたものではありません。

どこで育てられているか
アデレード大学のワイン経済研究センターがまとめた品種別のデータベースでは、イタリアのペコリーノの畑はおよそ2,900ヘクタールです。EUの統計局(Eurostat)の2020年の値で、2010年は1,100ヘクタールあまりでした。10年で2倍半ほどに増えています。
いまの中心は、マルケ州南部のアスコリ・ピチェーノ県とフェルモ県、それにアブルッツォ州の丘です。ただ、もとは山のぶどうだったようです。国の品種登録簿に載っている1962年の記録は、マルケ州アルクアータ・デル・トロント(Arquata del Tronto)の標高700メートルの畑と、マチェラータ県の標高500メートルの畑の古い木を観察して書かれました。どちらも石の多い山の土で、記録はこのぶどうが「乾いてやせた山の土」にもなじむとしています。

同じ記録には、土地ごとの呼び名が並びます。マチェラータ県ではヴィッソの町にちなむヴィッサネッロ(Vissanello)、アスコリ・ピチェーノ県ではペコリーナ・アルクアタネッラ(Pecorina Arquatanella)、アブルッツォ州のラクイラ県ではノルチャの町にちなむノルチーノ(Norcino)と呼ばれていました。いまの登録簿が正式な別名として認めているのは、ヴィッサネッロだけです。
広く植えられるようになったのは、1980年代の終わりからです。オッフィーダのワインの決まりによれば、このころ、土地に古くからあるペコリーノ、パッセリーナ(Passerina)、モンテプルチャーノへの関心が高まり、何人かの栽培家が調べて植え直しました。Quattrocaliciは、木の勢いが弱く収穫が少ないことが、このぶどうがいちど姿を消しかけた理由だと説明しています。

ペコリーノが主役のワイン
産地と造り方が国の決まりで定められた名前を、原産地呼称といいます。DOCはその一つで、DOCGは条件がさらに厳しい区分です。ペコリーノが主役になる、おもな呼称は次のとおりです。
| 呼称 | 州 | ペコリーノの割合 |
|---|---|---|
| オッフィーダ・ペコリーノ(DOCG) | マルケ | 85%以上 |
| テッレ・トッレージ(Terre Tollesi)のペコリーノ(DOCG) | アブルッツォ | 90%以上 |
| ファレリオ・ペコリーノ(Falerio Pecorino、DOC) | マルケ | 85%以上 |
| アブルッツォ・ペコリーノ(DOC) | アブルッツォ | 85%以上 |
| コントログエッラ・ペコリーノ(Controguerra Pecorino、DOC) | アブルッツォ | 85%以上 |
オッフィーダの範囲は、アスコリ・ピチェーノ県とフェルモ県にまたがり、海沿いから標高650メートルほどの丘までです。2001年にDOCになり、2011年にDOCGになりました。同じオッフィーダの名前で、パッセリーナの白ワインと、モンテプルチャーノの赤ワインもつくられます。ラベルには収穫の年を必ず書きます。
テッレ・トッレージは、トゥッルム(Tullum)とも名乗れる、アブルッツォ州のトッロ(Tollo)の村だけのDOCGです。ペコリーノは収穫の翌年の1月から売り出されます。ファレリオは、ふつうはトレッビアーノ・トスカーノ(Trebbiano Toscano)を主体にペコリーノを1〜3割混ぜる白ワインで、「ファレリオ・ペコリーノ」と書くものだけがペコリーノ主体です。アブルッツォDOCでは泡のワインも認められています。
このほか登録簿によれば、アブルッツォやマルケなどの20の地理的表示(IGT)でも、このぶどうを使えます。

どんなワインになるか
オッフィーダ・ペコリーノの色は、緑がかった麦わら色です。香りは白い花や、パイナップルのような果物で、アニスやセージの香りもあります。味わいは辛口で、酸がしっかりしていて、みずみずしく、余韻が長く続きます。アルコール分は12パーセント以上です。オッフィーダの保護協会は、骨格とみずみずしさ、アルコールのしっかりした感じ、それにはっきりした味わいが、長く保つワインにしていると説明しています。
トッロ村のペコリーノの香りは、洋なしやりんご、果肉の白い桃、アーモンドにたとえられ、セージやラベンダーのような草の香りも挙げられます。味わいは辛口で酸がよく、まとまりがあります。
熟すのが早いか遅いかは、資料によって言い方が分かれます。アブルッツォDOCの決まりはペコリーノを「早く熟す品種」の例に挙げていますが、同じ州のコントログエッラの決まりでは「中ほどに熟す品種」の側に入っています。
ペコリーノに合わせる食事
イタリア政府観光局のマルケ州の案内は、海沿いの町で食べる料理として、魚のスープのブロデット(brodetto)を挙げています。町の一部がオッフィーダの産地に入るサン・ベネデット・デル・トロント(San Benedetto del Tronto)のブロデットは、甘酸っぱい味つけです。同じページは、あさりのスパゲッティや、衣をつけて揚げたカタクチイワシに、ペコリーノやパッセリーナといったマルケの白ワインを合わせるよう勧めています。
アスコリ・ピチェーノの名物は、肉を詰めて揚げるオリーブ、オリーヴェ・アッラスコラーナ(olive all’ascolana)です。ただ観光局は、これを含む揚げものの盛り合わせには、地元のモンテプルチャーノの赤ワインを勧めています。
アブルッツォ州では、観光局がトッロの村を、白ワインが好きならペコリーノかパッセリーナを一杯、と紹介しています。
日本の食卓で試すなら、あさりのスパゲッティ、イワシやアジのフライ、魚介を煮込んだスープが、地元の料理に近い組み立てです。
