モスカートのワイン一覧
モスカートとは?
モスカート・ビアンコ(Moscato Bianco)は、北イタリアのピエモンテ州の丘を中心に、イタリアの各地で育つ白ぶどうです。甘口でアルコール分の低い泡のワイン「アスティ(Asti)」や、かすかに泡立つ甘口ワイン「モスカート・ダスティ(Moscato d’Asti)」になります。アスティの保護協会は以前のサイトで、ぶどうそのものの香りをワインの中にそのまま残すことが、このワインの要だと説明していました。
古代ローマの人々は、このぶどうを「蜂のぶどう」と呼んでいた、という説があります。1世紀の博物学者プリニウス(Plinius)は『博物誌』に、アピアナ(apiana)というぶどうについて「蜂が名づけ親で、蜂がことのほかこれを好むからだ」と書きました。
このアピアナは、シチリア島のノート(Noto)とシラクーザ(Siracusa)では、モスカートのことだとされています。カトー(Cato)は「アピキア(apicia)」、コルメッラ(Columella)とプリニウスは「アピアナ」と呼び、実が甘いので蜂がとりわけ好んだ、という書き方です。2,000年近く前の名前がいまのどのぶどうに当たるのかは確かめようがなく、これは説として読むのがよい話です。

どこで育てられているか
アデレード大学のワイン経済研究センターがまとめた品種別のデータベースでは、イタリアのモスカート・ビアンコの畑はおよそ1万5,000ヘクタールです。EUの統計局(Eurostat)の2020年の値で、2010年は1万1,500ヘクタールほどでした。
いちばんの産地は、ピエモンテ州の南、アスティ県・クーネオ県・アレッサンドリア県にまたがる51の村の丘です。アスティの呼称に登録された畑は1万ヘクタールを超え、その4分の1は傾きが30パーセントを超える急な斜面にあるとされます。こうした畑での仕事は「英雄的なぶどう栽培(viticoltura eroica)」と呼ばれます。対象の年も数え方も違う資料ですが、このぶどうの畑の多くがこの丘に集まっていることが分かります。

中心にあるのが、カネッリ(Canelli)とサント・ステファノ・ベルボ(Santo Stefano Belbo)の町です。カネッリでは、1344年の町の規約にぶどう栽培がこの土地の主な作物として出てきて、1616年の『アレッサンドリア年代記』にはモスカートの名があるとされます。
ピエモンテのほかにも、北のヴァッレ・ダオスタ州から南のシチリア島まで、このぶどうを使うワインがあります。国の品種登録簿は、別名としてヴァッレ・ダオスタ州のミュスカ・ド・シャンバーヴ(Muscat de Chambave)や、プーリア州に限って使えるモスカート・レアーレ(Moscato Reale)を載せています。
登録簿を「Moscato」で引くと、名前にこの語を含む品種が9つ出てきます。モスカート・ジャッロ(Moscato Giallo)やモスカート・ローザ(Moscato Rosa)は、この記事のモスカート・ビアンコとは別の品種です。ジビッボ(Zibibbo)も別の品種で、登録簿はモスカート・ダレッサンドリア(Moscato d’Alessandria)を別名として載せています。2001年に発表されたDNAの分析は、モスカート・ビアンコとジビッボを親子の関係にあると見ていますが、どちらが親かは分からないとしています。シチリアのパンテッレリーア島(Pantelleria)のモスカートとパッシートは、ジビッボだけでつくるワインです。
モスカートが主役のワイン
主な呼称と、モスカート・ビアンコの割合です。DOCとDOCGは、産地や造り方が国の決まりで定められたイタリアの原産地呼称で、DOCGはそのうち生産の条件がもっとも厳しい区分です。
| ワイン | 州 | モスカート・ビアンコの割合 |
|---|---|---|
| アスティ(DOCG) | ピエモンテ | 97%以上 |
| モスカート・ダスティ(DOCG) | ピエモンテ | 97%以上 |
| アスティのロゼ(DOCG) | ピエモンテ | 70〜90%(残りはブラケット) |
| カネッリ(DOCG) | ピエモンテ | 100% |
| ロアッツォーロ(Loazzolo、DOC) | ピエモンテ | 100% |
| モスカート・ディ・ノート(DOC) | シチリア | 100% |
| シラクーザのモスカート(DOC) | シチリア | 85%以上 |
| モスカート・ディ・トラーニ(Moscato di Trani、DOC) | プーリア | 85%以上 |
アスティとモスカート・ダスティは、同じアスティDOCGの中の二つのタイプです。アスティはしっかり泡立つワインで、味わいは辛口から甘口まで幅があります。大きなタンクの中で泡をつくる方法なら1か月以上、瓶の中で泡をつくる方法(metodo classico)なら澱とともに9か月以上ねかせます。保護協会によれば、カネッリのカルロ・ガンチア(Carlo Gancia)が1865年にこのぶどうで泡のワインをつくったのが、いまのアスティの始まりです。
モスカート・ダスティは甘口で、泡はあってもかすかです。瓶の中の圧力に上限があり、泡のワインに使うキノコ形の栓と針金の留め具は使えません。ラベルには収穫の年を必ず書きます。
2026年3月の改定で、黒ぶどうのブラケット(Brachetto)を1〜3割混ぜたアスティのロゼが加わりました。ピエモンテ州の記事が読んだ、2025年1月に州が掲載した版には、まだロゼはありませんでした。
カネッリは、2023年にEUで認められた新しいDOCGです。アスティの産地の西寄り、カネッリのまわりの17の村に限られ、収穫は手摘みだけです。30か月以上ねかせ、そのうち20か月以上を瓶の中で過ごしたものはリゼルヴァ(Riserva)を名乗れます。

どんなワインになるか
モスカート・ダスティや甘口のアスティが甘く、アルコール分が低いのは、発酵を途中で止めるからです。保護協会によれば、モスカート・ダスティはアルコール分が5パーセントほどになったところで液を冷やして発酵を止め、酵母を取り除きます。残った糖分が甘さになり、止めるまでに生まれた炭酸がかすかな泡になります。冷やして発酵を止めるこのやり方は、19世紀の終わりからこの土地で磨かれてきたとされます。
モスカート・ダスティのアルコール分は4.5〜6.5パーセントで、アスティは6パーセント以上です。保護協会が以前のサイトで説明していた造り方では、搾った果汁を0度に冷やして寝かせておき、必要なぶんずつ発酵させていました。貯えておく期間は、長ければ12〜15か月にもなるそうです。
モスカート・ダスティの色は麦わら色で、香りは「モスカートらしく、はなやか」、味わいは甘く、香りがあって、ときにかすかな泡を伴います。保護協会は香りを、アカシアや藤、オレンジの花、山の蜂蜜にたとえ、セージやレモンを感じるとしています。この香りのもとは、ぶどうの実に含まれる香りの成分で、とくにリナロール(linalolo)が多いと、同じ協会の以前のサイトは説明していました。時間がたつと香りが変わるので、収穫の翌年のうちに飲むよう勧めていました。

収穫を遅らせたり、干したりしたぶどうからつくる甘口ワインもあります。ロアッツォーロは2年以上ねかせてから出し、色は輝く黄金色、香りは複雑で、砂糖漬けの果物を思わせます。
モスカートに合わせる食事
イタリア政府観光局は、アスティの町の甘いもの、トルタ・デル・パリオ(Torta del Palio)を、モスカート・ダスティやアスティと一緒に味わう菓子として挙げています。溶かしたビターチョコレートで覆ったケーキです。
ピエモンテはヘーゼルナッツの産地でもあります。アスティの保護協会は、ピエモンテのヘーゼルナッツとアスティ、モスカート・ダスティは昔から決まった組み合わせだとしていて、産地のカスタニョーレ・デッレ・ランツェ(Castagnole delle Lanze)で開かれる「ヘーゼルナッツ祭り」にも加わっています。
保護協会によれば、モスカート・ダスティは、畑で働く人が塩気のある軽食に添えて飲むものでした。
日本の食卓で試すなら、チョコレートをかけたケーキ、ヘーゼルナッツを使った焼き菓子、ハムやチーズを挟んだ軽いパンが、地元の料理に近い組み立てです。
