シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原ワイナリーとは?
シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原ワイナリー(Château Mercian Kikyogahara Winery)は、長野県塩尻市の桔梗ヶ原(ききょうがはら)にある小さなワイナリーです。「シャトー・メルシャン」はメルシャンの日本ワインの名前で、山梨の勝沼と長野の椀子(まりこ)にもワイナリーがあります。桔梗ヶ原ワイナリーは2018年秋、1938年に開業した「塩尻セラー」の建物を生かして開かれました。会社はここを「ガレージワイナリー」と呼んでいて、ふだんは開いておらず、訪ねられるのは年に数回の一般公開日だけです。
この土地のメルロー(Merlot)の歴史は、畑の木を植え替えると農家の収入が何年も途絶える、という問題をどう越えるかから始まりました。メルシャンが2026年に公式通販で連載している「桔梗ヶ原の挑戦と未来」で、植え替えの現場を担った元工場長の上野昇は、こう振り返っています。
パッと切り替えるんじゃなくて、(コンコードを)取りながら、徐々に切り替えていく。
礫の上に火山灰が積もった台地
桔梗ヶ原は、松本盆地の南の端にある台地です。メルシャンの説明では、奈良井川(ならいがわ)がつくった扇状地の上に広がり、礫(れき、小石のこと)を多く含む層の上に火山灰由来の土が積もっているため、水がたまりにくい土地です。四方を山に囲まれた内陸で雨は比較的少なく、標高が700メートルほどあるので夏でも夜は冷え、冬は氷点下10度まで下がります。会社は、水はけのよさで根が深く伸び、木の勢いが抑えられて、粒の小さな凝縮したぶどうになりやすいと説明しています。
同じ会社のページでも、数字は揃っていません。産地の紹介ページは、本文で桔梗ヶ原を「標高700m、火山灰土壌」とし、すぐ下の表では「標高740m」「砂礫質」としています。
ワイナリーの敷地には、“箱庭”ヴィンヤードと呼ばれる小さな畑があります。狭さから親しみを込めて箱庭と呼んでいたら、その名が定着したといいます。メルシャンが塩尻で初めて垣根の仕立てを試した畑で、メルローのほかにカベルネ・フラン(Cabernet Franc)、リースリング(Riesling)、フィアーノ(Fiano)を試しに育て、塩尻に合う品種を選んでいます。建物は半地下にあり、もとの建物に残っていた古い大樽の奥に、新しい樽庫をつくりました。温度と湿度が一定に保たれ、選んだぶどうのワインを樽でゆっくり育てています。
歩み
桔梗ヶ原でぶどうが育てられ始めたのは明治の後期で、メルシャンの連載は1890年(明治23年)を最初の年として挙げています。長く主役だったのは、寒い土地でも育てやすいコンコード(Concord)やナイアガラ(Niagara)といったアメリカ系の品種でした。1970年代に、国内で売れるお酒が甘い果実酒から本格的なワインへと入れ替わり、ヨーロッパの品種に目が向けられます。
1976年1月、メルシャンの勝沼ワイナリーの工場長だった浅井昭吾(あさい しょうご、筆名は麻井宇介〔あさい うすけ〕)が、地元の大黒葡萄生産出荷組合の人たちを集め、メルローへの植え替えが始まりました。上野によれば、カベルネ・ソーヴィニヨンでは標高の高い桔梗ヶ原で熟しきらない年があるため、早く熟して収量も安定するメルローが選ばれました。ぶどうが十分に穫れるまでには最低でも5年かかり、上野の言葉では、一斉に植え替えると「三年ぐらいスコーンと収入がなくなる」。そこで2月の講習会は、植え替えると決めた農家に絞って開き、コンコードを収穫しながら少しずつメルローに替えていくことにしました。植えた苗は6000本にのぼります。地元で先にメルローを育てていた林幹雄(五一わいん)が「やるならメルローしかない」と勧めたことも、連載は伝えています。
1985年のヴィンテージから「桔梗ヶ原メルロー」が造られ、1989年に「信州桔梗ヶ原メルロー 1985」がスロベニアのリュブリアーナ国際ワインコンクールで大金賞を受けました。上野は、このとき生産者や行政も含めた塩尻市全体で祝賀会を開いたことを挙げ、会社だけでなく地域の信頼として積み上げることを考えていたと語っています。1998年からはボルドーのシャトー・マルゴーの総支配人ポール・ポンタリエを助言者に迎え、「フランスの再現ではない」という助言を受けて、畑は棚から垣根の仕立てへと移っていきました。
2016年には、塩尻市の片丘(かたおか)地区に標高およそ800メートルの自社管理の畑を開き、2018年秋に桔梗ヶ原ワイナリーが動き出しました。
代表的なワイン
桔梗ヶ原メルローは、桔梗ヶ原のメルローだけでつくる赤ワインです。チーフ・ワインメーカー田村隆幸のコメント(2017年ヴィンテージ)では、紫がかったガーネット色で、カシスやダークチェリーのドライフルーツ、ミントのようなハーブ、樽からのコーヒーやバニラの香りがあり、ほどよい酸としっかりしたタンニンがあります。会社は、ラム肉のステーキや牛肉の煮込みと合わせることを勧めています。
桔梗ヶ原メルロー シグナチャーは、その中から特別な区画を選び、さらに樽を選び抜いたものです。名前は「特別なワインに醸造責任者が署名を入れる」ことを表しています。2019年ヴィンテージは紫がかった濃いガーネット色で、カシスやブラックベリー、クローブ、腐葉土、バニラ、タバコ、コーヒーの香りがあり、やわらかい酸とタンニンが長い余韻として残るとされています。会社によれば、2026年の日本ワインコンクールで2021年ヴィンテージがグランドゴールド賞を受けました。
日本のあわ 桔梗ヶ原メルロー ロゼは、桔梗ヶ原のメルローを、ロゼ向きの時期に摘んでつくる辛口のスパークリングワインです。色は淡いサーモンピンクで、さくらんぼやいちご、白い桃の香りがあるとされています。ワイナリーと公式通販だけで売られています。
調査時点(2026年10月27日)の公式通販の税込価格は、桔梗ヶ原メルロー(2018年、750ミリリットル)が14,000円、シグナチャー(2019年)が20,000円、日本のあわ 桔梗ヶ原メルロー ロゼ(720ミリリットル)が3,000円でした。






