Vino Storia

ワインのお話

インツォリア

インツォリアのワイン一覧


インツォリアとは?

インツォリア(Inzolia)は、シチリアの西部を中心に育てられている白ぶどうです。おもに辛口の白ワインになり、島の西端でつくる酒精強化ワイン、マルサラ(Marsala)の原料のひとつにもなります。国の品種登録簿での正式な名前はアンソニカ(Ansonica)で、インツォリアとインソリア(Insolia)は、その別名として載っています。海を渡ったトスカーナの南の海沿いや島々でも育てられていて、こちらではアンソニカの名で呼ばれます。

この品種は、名前の書き方がとにかく揺れます。シチリアのワインの決まりの文書の多くは「インツォリア」と書きますが、島全体を範囲にする「シチリア」の文書は、ひとつの文書のなかで Insolia と Inzolia の両方の綴りを使っています。マルサラの文書は「アンソニカ(地元ではインツォリアと呼ぶ)」です。トスカーナのジーリオ島(Isola del Giglio)の古い記録には、アンソナコ(Ansonaco)、アンツォニカ(Anzonica)という綴りも出てきます。日本の酒屋の棚にも、インツォリアとインソリアの両方の表記が並んでいます。

名前の由来ははっきりしていません。イタリアのワイン情報サイト、クアットロカリチ(Quattrocalici)は、トスカーナのジーリオ島やアンセドーニア(Ansedonia)という地名から来たとする説と、ギリシャ語やアラビア語に由来を求める説を並べています。

葉のついた枝から下がるインツォリアの大きな房を描いた彩色の図版。粒は丸みのある黄色
20世紀はじめにフランスで出たぶどうの図鑑に描かれたインツォリア。粒は丸みのある黄色で、房は大きいAlexis Kreyder(Viala & Vermorel『Ampélographie』1901〜1910年) / CC0 / Wikimedia Commons

どこで育てられているか

シチリア州のぶどう・ワイン研究所(IRVO)が2025年にまとめた報告によれば、2021年の島のインツォリアの畑はおよそ4,400ヘクタールで、島のワイン用ぶどうの畑の5パーセントに届きません。同じ白ぶどうのグリッロ(Grillo)の半分ほどの広さです。アデレード大学の品種別データベースでは、イタリア全体でおよそ5,800ヘクタールです(EUの統計局 Eurostat の2020年の値)。

クアットロカリチによれば、シチリアではアグリジェント、トラーパニ、パレルモの3県、つまり島の西半分に多く、サルデーニャ島の南西の海沿いにもあります。

太くねじれた幹の古いぶどうの木から、黄色く熟した白ぶどうの房が下がっている。足もとは乾いた土
アグリジェント県メンフィの畑で、8月の終わりに実をつけたインツォリアの古い木Marilena.CantineBarbera / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

トスカーナで育つアンソニカについて、エルバ島(Isola d’Elba)のワインの決まりの文書は、島のぶどうの多くはルネサンスの時代に地中海の各地から入ってきたもので、アンソニカはシチリアから来た、と書いています。いっぽう、クアットロカリチはトスカーナでの記録は17世紀から、シチリアでは中世から知られていたとしています。どちらが先かを決める資料は見つけられませんでした。

トスカーナでこのぶどうと縁が深いのは、本土の沖に浮かぶジーリオ島です。南の海沿いの呼称「アンソニカ・コスタ・デッラルジェンターリオ」の決まりの文書は、20世紀の書き手オットリーノ・ブランダリア(Ottorino Brandaglia)がこの島について書いた文章を引いています。

島の農夫は、岩だらけの急な斜面に、ところによっては土まで運び上げてぶどうを植えた。そして雨と風の激しさから守るため、小さな畑を石の低い壁で囲んだ。

この小さな畑は、島の言葉で「ポステ(poste)」とか「カッキオーニ(cacchioni)」と呼ばれていたそうです。トスカーナ州の観光サイトも、ジーリオ島のぶどう栽培を、花崗岩の石垣で斜面を削り取ってきた歴史として紹介しています。同じ文書によれば、島には岩をくりぬいてつくった古い搾り槽がいくつも残り、エトルリア人やローマ人がぶどうを踏むのに使ったとされています。


インツォリアが主役のワイン

DOCは、産地や造り方が国の決まりで定められたイタリアの原産地呼称です。インツォリアは多くのDOCで使えますが、主役になるのは次のワインです。

ワインどんなワインかインツォリア(アンソニカ)の割合
シチリア インツォリア(DOC)島全体が範囲。辛口からやや甘口の白ワイン85%以上
メンフィ インツォリア(DOC)アグリジェント県の海辺の町。辛口の白ワイン85%以上
コンテッサ・エンテッリーナ ビアンコ(DOC)パレルモ県の内陸の白ワイン50%以上
マルサラ(DOC)の金色と琥珀色のもの島の西端の酒精強化ワイングリッロ、カタラットなどと合わせて使う。割合の決まりはない
アンソニカ・コスタ・デッラルジェンターリオ(DOC)トスカーナ南端の海沿いと、ジーリオ島の辛口の白ワイン85%以上
エルバ アンソニカ(DOC)エルバ島の辛口の白ワインと、干したぶどうの甘口ワイン85%以上

「シチリア」の名前で出す白ワインは、インツォリア、カタラット(Catarratto)、グリッロなど7品種を合わせて半分以上使えばよく、ラベルに品種名を出すときだけ、その品種が85パーセント以上になります。シチリアの文書は、島が地元の品種で質の高い白ワインをつくれると認められたのは1980年代の終わりから90年代のはじめで、その品種としてインツォリア、カタラット、グリッロの名を挙げています。

アンソニカ・コスタ・デッラルジェンターリオは1995年に生まれた呼称で、範囲はアルジェンターリオ半島とジーリオ島の全域、それに本土の三つの町の一部です。エルバ島では、アンソニカを少なくとも10日間、風に当てたり屋内に置いたりして干し、甘口のパッシート(passito)もつくります。トスカーナ州の観光サイトによれば、ジーリオ島ではぶどうを花崗岩の岩の上に広げて日に当てて干し、甘口ワインにすることもあるそうです。

二列のぶどうの木のあいだに土の道がのび、その先に海が見える
シチリアの海辺のぶどう畑。9月、畝のあいだの道の先に海が見えるFabio Ingrosso / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

どんなワインになるか

呼称ごとの決まりの文書によれば、色はどれも麦わら色で、濃さには幅があります。シチリアとメンフィのインツォリアは、香りが繊細で心地よく、味わいは「サピド(sapido)」とされています。日本語にしにくい語で、「味がしっかりある」という意味で使われます。コンテッサ・エンテッリーナのものは、繊細で果実の香りがあり、辛口でふくよかです。

アンソニカ・コスタ・デッラルジェンターリオの文書はもう少し詳しく書いています。色はときに黄金色まで濃くなり、香りはみずみずしく、ほのかに果実を感じさせる程度です。味わいは辛口でまろやか、温かみがあり、酸は控えめで、アルコールはやや高めになります。

クアットロカリチは、黄色い花、ハーブ、柑橘、アーモンド、蜂蜜の香りを挙げ、味わいは厚みがあって酸は穏やか、後味にほんのりした苦みが残るとしています。トスカーナのものはきりっとして、シチリアのものは丸くやわらかい、という違いも書いています。


インツォリアに合わせる食事

クアットロカリチは、魚、えびやかになどの甲殻類、鶏などの白い肉、フレッシュチーズ、地中海の味つけのパスタを挙げています。

イタリア政府の観光サイトがシチリアの料理として最初に挙げるのは、パスタ・コン・レ・サルデ(pasta con le sarde)です。いわしのパスタで、干しぶどう、松の実、サフラン、野生のういきょう、香ばしく炒ったパン粉が入り、甘みと酸味が行き来する味だといいます。

ジーリオ島の名物は、トスカーナ州の観光サイトによれば、うさぎの猟師風(coniglio alla cacciatora)です。トマト、香辛料、唐辛子、オリーブで煮込み、にんにく、フェンネルの種、オレンジの皮で香りをつけます。菓子なら、いちじくとくるみでつくるパンフィカート(panficato)です。

日本の食卓で試すなら、いわしとういきょうのパスタに干しぶどうと松の実を足したもの、鶏肉をトマトとオリーブで煮たもの、いちじくとくるみの焼き菓子が、地元の料理に近い組み立てです。