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グリッロ

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グリッロとは?

グリッロ(Grillo)は、シチリアの西の端、港町マルサラ(Marsala)のまわりで育つ白ぶどうです。いまはハーブや柑橘の香りのする辛口の白ワインとして知られていますが、もとは、ワインに蒸留酒を加えて仕上げる酒精強化ワイン「マルサラ」の原料として広まりました。イタリア語でグリッロはコオロギのことで、シチリアの方言ではグリッドゥ(griddu)とも呼ばれてきましたが、なぜその名が付いたのかを説明した資料は見つかりませんでした。

赤みを帯びた乾いた土の畑に、低く仕立てたぶどうの株が緑の葉を茂らせて並び、奥に古い石造りの建物と並木が見える
6月のマザーラ・デル・ヴァッロ。赤みを帯びた乾いた土に、低く仕立てたぶどうの株が並ぶRino Porrovecchio / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

このぶどうは、両親がはっきりしています。2007年以降の遺伝子の研究で、シチリアの白ぶどうカタラット(Catarratto)と、ジビッボ(Zibibbo、モスカート・ダレッサンドリア)の掛け合わせだと分かりました。分からないのは、だれが掛け合わせたのかです。

名前が挙がってきたのは、アグリジェント県ファヴァーラ(Favara)の地主で、ぶどうの品種を集めて研究していたアントニオ・メンドラ男爵(Antonio Mendola、1828〜1908)です。男爵は1869年、自分の畑でカタラットの花にジビッボの花粉をつけ、育った苗から1874年の秋に最初の房を味わった、と書き残しています。親の組み合わせがグリッロと同じなので、グリッロは男爵がつくったぶどうだ、という説が広まりました。生産者のドンナフガータのサイトも、19世紀半ば以降に男爵がつくった可能性がある、と書いています。

これに異を唱えたのが、シチリアの経済史家ロザリオ・レンティーニ(Rosario Lentini)の2025年の論考です。マルサラの研究者が1873年から翌年にかけて全国誌に書いた記事に、マルサラで育てられている白ぶどうとして、すでにグリッロの名があるといいます。1874年に男爵の畑で初めて実ったぶどうが、同じころ別の県で広く植えられていたとは考えにくい、というのが論考の主張です。2021年の遺伝子の研究では、男爵の交配種と見られるぶどうの母親がカタラットではないことも分かり、二つは別の品種だとされました。論考は、マルサラの畑で、名もない栽培家の手か、風や虫による自然の交配で生まれたのではないか、と推測しています。


どこで育てられているか

グリッロの畑は、ほとんどがシチリアの西部にあります。シチリアDOCの生産者団体によれば、中心はトラーパニ県で、パレルモ県とアグリジェント県にもあります。シチリア州のぶどう・ワイン研究所(IRVO)の資料では、2021年の島の畑はおよそ8,600ヘクタールで、島のぶどう畑の9パーセントほどにあたります。カタラットの二つのタイプ(ルチードとコムーネ)とネロ・ダーヴォラに次ぐ広さです。アデレード大学の品種別データベースは、イタリア全体でおよそ9,500ヘクタールとしています(EUの統計局 Eurostat の2020年の値)。

マルサラのワインの決まりの文書は、この土地を、海沿いの標高50メートルから内陸の低い丘の300メートルまでの、ほとんど平らな土地と書いています。畑の多くは海に向かって開け、日差しが強く、土は乾いてやせています。冬には雨が降ることもありますが、夏は暑く乾き、アフリカから吹く熱い風で、焼けつくような日もあるといいます。

遠浅の青い潟が広がり、右手に木の桟橋が沖へ延び、遠くに白い帆のヨットと低い島影が見える
マルサラの北、スタニョーネの潟。コントラーダ・スパニョーラの岸から見た遠浅の海trolvag / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

イタリア語版ウィキペディアは、マルサラの中でも質のよいグリッロが育つ地区として、トリリア・スカレッタ(Triglia Scaletta)、ファヴァロッタ(Favarotta)、スパニョーラ(Spagnola)、ビルジ(Birgi)を挙げています。スパニョーラとビルジは、町の北に広がる浅い潟、スタニョーネ(Stagnone)の岸にある地区です。イタリア政府観光局によれば、この潟の沿岸には塩田が並び、季節によって色を変える水面に、白い塩の山と風車が浮かびます。


グリッロが主役のワイン

DOCは、産地や造り方が国の決まりで定められたイタリアの原産地呼称です。グリッロの名前をラベルに出すワインと、マルサラの主な呼称は次のとおりです。

ワインどんなワインかグリッロ
シチリア(DOC)グリッロ辛口の白ワイン。遅摘み、陰干しの甘口、発泡ワインもある85%以上
メンフィ(DOC)グリッロ島の南西、アグリジェント県の辛口の白ワイン85%以上
マルサラ(DOC)のオーロとアンブラ金色、琥珀色の酒精強化ワインカタラット、インツォリア、ダマスキーノと合わせて使う。割合の決まりはない

クアットロカリチ(Quattrocalici)によれば、グリッロが広まったのは、19世紀の後半、害虫で島の畑が荒れたあとです。シチリアの生産者は、糖分を多く蓄え、暑さに強く、しっかりしたワインになる品種を求め、グリッロがそれに応えました。ウィキペディアも、グリッロは他の白ぶどうより糖度がずっと高くなり、ワインのアルコール度数が15〜16度に届くこともある、と書いています。

ところが20世紀に入ると、畑はカタラットに押されて少しずつ減っていきます。流れが変わったのは1990年代で、土地の品種が見直され、辛口の白ワインの品種として復活しました。1990年には、マルサラの生産者マルコ・デ・バルトリが、グリッロだけで白ワインをつくり始めています。会社は、グリッロだけでつくった最初の白ワインだとしています。

ラベルの決まりも、グリッロをシチリアDOCに集めました。IRVOによれば、2017年から、島全体の地理表示ワイン「テッレ・シチリアーネ(Terre Siciliane)IGT」では、グリッロとネロ・ダーヴォラの名前をラベルに書けなくなりました。それをきっかけに、DOCとして届け出る畑が増え始めました。

水を張った塩田の向こうに白い塩の山がいくつも並び、手前の石積みの岸に古い瓦が積み重ねてある
スタニョーネの塩田。白い塩の山と、積み重ねた瓦、石積みの岸Derbrauni / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

マルサラは、決まりの上では、ぶどう由来のアルコールかワインの蒸留酒を加えたワインです。「スペリオーレ(Superiore)」は2年以上、木の樽で寝かせ、「セッコ(secco)」と書かれたものは辛口です。


どんなワインになるか

シチリアDOCの決まりでは、グリッロの白ワインは麦わら色で、香りは上品で繊細です。味わいは辛口から、ほんのり甘いものまであり、調和がとれて厚みがあり、サピド(sapido)とされています。サピドは日本語にしにくい語で、「味がしっかりある」という意味で使われます。

香りについて、生産者団体は草やハーブ、花、柑橘を挙げ、味わいは酸がしっかりしていて、まろやかさとのつり合いがよいとしています。クアットロカリチは、柑橘、地中海のハーブ、白い花、青りんご、桃を挙げています。

同じ品種でも、造り手によって印象はずいぶん違います。ドンナフガータの「スルスル(SurSur)」2025年は、トロピカルフルーツと、地中海の低木の茂み(macchia mediterranea)を思わせる香りがあり、口に含むとみずみずしいと説明されています。9〜11度に冷やして飲むよう勧めています。

マルサラのオーロは、決まりの上では濃淡のある金色、アンブラは琥珀色です。マルコ・デ・バルトリは、自社のマルサラ・スペリオーレ・オーロ・リゼルヴァを、昔ながらのマルサラより、みずみずしく甘さが控えめだとしています。


グリッロに合わせる食事

トラーパニの名物として、イタリア政府観光局はクスクス(cous cous)を挙げています。北アフリカから伝わったセモリナの粒を蒸し、魚のスープや香辛料、野菜と合わせて食べる料理です。マルサラの町の中心には魚市場があり、昼はスタニョーネとシチリア海峡でとれた魚が集まり、夜は食事をする人でにぎわうそうです。

絵付けの皿に盛ったクスクスの上にムール貝がのり、奥の器に赤茶色の魚のスープと白ワインのグラスが見える
トラーパニ風の魚のクスクス。ムール貝をのせ、魚のスープを別の器に添えるCiva61 / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons

ドンナフガータは、自社のグリッロを、魚介のパスタや、焼いた鶏などの白い肉、フレッシュチーズに合わせるよう勧めています。マルコ・デ・バルトリは、オーロのマルサラを青かびのチーズや手長えびと合わせられるとしています。

日本の食卓で試すなら、魚のだしで炊いたクスクスやあさりのパスタ、鶏のグリル、ゴルゴンゾーラが、地元の料理に近い組み立てです。