この記事でわかること
- エトナ(Etna)がどんな場所で、なぜ「シチリアらしくない」味になるのか
- 畑を「コントラーダ(contrada)」という区画名で呼ぶ慣習のこと
- 赤ワインと白ワイン、それぞれどんな味わいなのか
- 麓の町で何を食べるか、いくらぐらいで買えるのか

イタリアの南、シチリア(Sicilia)のワインと聞いて思い浮かべる味と、エトナのワインはたぶん一致しません。
エトナの赤ワインは、色が淡いのです。酸が高く、アルコールも南イタリアにしては控えめ。しばしば「ブルゴーニュのようだ」と言われます。産地の決まりを定めた文書は、この一帯をひとことで言い表しています。
島の中の島(un’isola nell’isola)。
火山の中腹に、ぐるりと畑がある
エトナはヨーロッパでいちばん高い活火山で、いまも噴煙を上げています。2013年に世界自然遺産に登録されていますが、登録の対象になっているのは人の住まない山頂部だけです。
ぶどう畑があるのは、その外側の中腹です。標高はおよそ300メートルから900メートル。高いところでは1,100メートルに達します。この高さのおかげで、シチリアにありながら昼と夜の温度差が大きくなります。決まりの文書は、エトナを島でいちばんぶどうの熟すのが遅い土地としています。ネレッロ・マスカレーゼの収穫は10月の初めに始まり、高いところでは11月にかかることもあります。
畑の土は、溶岩が風化したものです。黒くて軽く、水はけがよく、ミネラル分に富んでいます。斜面には、この黒い溶岩石を積んだ石垣が段々畑を支えています。モルタルを使わない空積みで、リグーリアのチンクエ・テッレの段々畑にも共通する積み方です。
産地の輪郭も変わっています。境界の一部が、過去の噴火で流れた溶岩の縁で引かれているのです。18世紀から20世紀にかけての溶岩流が、そのまま産地の線になっています。火口を頂点とする三角形の土地のうち、呼称が関わるのは中腹の帯だけなので、産地は火山を囲む半円形で、西側だけが開いた形になります。
畑を「区画」の名前で呼ぶ
エトナのワインを見ていると、ラベルに聞き慣れない地名が添えられていることがあります。これがコントラーダ(contrada)、畑の区画の呼び名です。ブルゴーニュのクリュに近い考え方といえます。
これは愛称や慣習ではなく、産地の決まりに根拠があります。名乗ってよい区画が一覧として定められていて、その数は130あまり。ただし産地にまたがる20の自治体のうち、区画名を持つのは9つだけです。しかもカスティリオーネ・ディ・シチリアという一つの自治体だけで、全体の3分の1を超えます。
コントラーダという土地の区分そのものは、以前からこの山にありました。畑や集落を指す呼び名として使われていたものが、ワインの名前として前に出てきたのが2000年前後で、名乗ってよい区画の一覧が決まりに収められたのは2011年です。
2000年前後、トスカーナから来たアンドレア・フランケッティ、イタリアワインの輸出で知られたマルク・デ・グラツィア、ベルギー出身のフランク・コーネリッセンが、相次いでこの山にワイナリーを構えます。ブルゴーニュを手本に、区画ごとの違いを表現しようとした人たちでした。2008年にはフランケッティが「コントラーダ・デッレトナ」という生産者の合同試飲会を始め、これがエトナ最大のワインイベントに育ちます。
淡い赤ワインと、酸のある白ワイン
エトナ・ロッソ(Etna Rosso)の主役は、ネレッロ・マスカレーゼ(Nerello Mascalese)という土着の黒ぶどうです。8割以上を占めることが条件で、残りにネレッロ・カプッチョ(Nerello Cappuccio)を加えます。
決まりの文書がこのワインに与えている言葉は、意外なほどそっけないものです。色は「ルビー、熟成でガーネットを帯びる」。香りは「強く、この土地らしい」。味は「辛口で、温かく、力強く、豊かで、調和がとれている」。淡いとも繊細とも書いていません。2014年の版でも、同じ文言のままです。
いまこのワインが語られるときの言葉は、だいぶ違います。ネレッロ・マスカレーゼは色の淡い赤ワインになる品種で、赤い果実の香りが立ち、酸が高く、渋みはやわらかくなります。ワイン誌はしばしば、ブルゴーニュのピノ・ノワールやピエモンテのネッビオーロと並べて説明します。
淡い色は、この品種そのものの性格です。決まりのうえでは、ネレッロ・マスカレーゼを8割以上使い、残りにネレッロ・カプッチョと、シチリア州で認められた香りの穏やかな白ぶどうを1割まで加えられます。実際に何をどれだけ使うかは造り手によって違うので、色の濃さも一様ではありません。
エトナ・ビアンコ(Etna Bianco)は、カリカンテ(Carricante)という白ぶどうが主役で、6割以上を占めることが条件です。色は淡い麦わら色で、香りは繊細。味は辛口で、酸がしっかりしています。決まりのうえでも、白ワインに求められる酸の下限は赤ワインより高く設定されています。
ミロ(Milo)という村の区域でつくられたものだけは「スペリオーレ(Superiore)」を名乗れます。ひとつの村の名前が、上位区分の条件になっている珍しい例です。
泡もあります。ただしこの産地のスプマンテは、瓶の中で二次発酵させる方法だけが認められています。タンクでつくったものは「エトナ」を名乗れません。決まりの文書によれば、1800年代の終わりにはすでに、地元の男爵がこの製法で泡をつくっていたそうです。

エトナのワインに合わせる食事
エトナの北西側の斜面には、ブロンテ(Bronte)という町があります。ここでとれる緑色のピスタチオは「緑の金」と呼ばれ、2009年にEUの原産地保護(PDO)を受けました。菓子にも料理にも使われ、ペスト(pesto)のような塩味のソースにもなります。
麓のカターニア(Catania)は、シチリアの東の海に面した街です。魚市場ペスケリア(Pescheria)は朝に開く古い市場で、魚は生のままでも、その場で食べられるようにさばいても売られています。イタリアの公式観光サイトが街の名物として最初に挙げるのは、パスタ・アッラ・ノルマ(pasta alla Norma)。揚げたなすとトマト、塩漬けのリコッタを使うパスタで、この街の出身の作曲家ベッリーニのオペラから名前をとっています。
屋台の食べものなら、米を丸めて揚げたアランチーノ(arancino)です。土地によっては女性形で「アランチーナ」と呼びますが、カターニアでは男性形で頼むように、と同じサイトは念を押しています。シチリアの菓子としては、温かいブリオッシュを添えるグラニータ(granita)も挙げられていて、ブロンテのピスタチオはこのグラニータやジェラートにも使われます。
ワインがつくられる山の村にも、それぞれの名物があります。公式観光サイトはエトナのワイン街道の案内で、ランダッツォ(Randazzo)のネブロディ産の黒豚のソースで和えたマカロニやきのこ、ザッフェラーナ・エトネア(Zafferana Etnea)の蜂蜜を挙げています。
日本の食卓で試すなら、淡い赤ワインにはなすとトマトのパスタ(パスタ・アッラ・ノルマに近いもの)や豚肉のグリルが、白ワインには白身魚のカルパッチョや塩焼きが、この土地の料理に近い組み立てです。

行くなら、買うなら
起点はカターニアです。空港があり、ローマやミラノから直行便で行けます。
エトナをめぐるなら「チルクムエトネア鉄道(Ferrovia Circumetnea)」が知られています。19世紀の終わりに開通した路線で、火山のふもとをぐるりと回りながら、溶岩の跡やぶどう畑、ピスタチオ畑のあいだを走ります。
ただし、全線を1本の列車で回れるとはかぎりません。区間の運休があると、途中から代替バスに乗り継ぐことになります。2026年9月4日の時点では、カターニア側の一部が地下鉄の延伸工事で運休していました。運行する区間と時刻は変わるので、訪ねる前に鉄道会社の公式案内で確認してください。
日本での入手ですが、調査時点(2026年9月4日)にイタリアワインの専門店で確認できた範囲では、エトナ・ロッソは2,500円台から見つかり、3,000円から6,000円あたりが中心でした。区画名(コントラーダ)を冠したものは1万円を超えます。エトナ・ビアンコは2,700円台からで、こちらも3,000円から7,000円あたりが中心です。
この産地は伸びています。認証されたワインの量は、2012年から2025年までの13年でおよそ5倍になりました。認証の件数はさらに増えていて、8倍を超えます。それでも申告されている畑の広さは1,400ヘクタールほどで、シチリア全体からすればごく小さいままです。産地としては1968年にシチリアで最初に認定された古株ですが、いまはDOCG——原産地呼称のなかで、より厳しい条件がつく区分——への移行を目指して申請を進めています。
