Vino Storia

ワインのお話

エミディオ・ペペ

エミディオ・ペペのワイン一覧


エミディオ・ペペとは?

エミディオ・ペペ(Emidio Pepe)は、イタリア中部のアドリア海側、アブルッツォ(Abruzzo)州の北の村トラーノ・ヌオーヴォ(Torano Nuovo)にあるワインのつくり手です。この土地の黒ぶどうモンテプルチャーノ(Montepulciano)の赤ワインと、白ぶどうトレッビアーノ(Trebbiano)の白ワインをつくっています。

1964年に会社を始めたエミディオ・ペペは、2026年7月28日、94歳で、生まれ育ったトラーノ・ヌオーヴォで亡くなりました。いまは娘のソフィア(Sofia)とダニエラ(Daniela)、孫のキアラ(Chiara)とエリーザ(Elisa)が営んでいます。

この家がほかと違うのは、ワインを売り急がなかったことです。公式サイトによれば、創業のころから、つくったワインの少なくとも半分を蔵に残し、その年のワインがいちばんよい姿になったと一家が判断してから、少しずつ出してきました。蔵には、いまも30万本を超える瓶が眠っています。


畑のある土地

トラーノ・ヌオーヴォは、アブルッツォ州のいちばん北、テーラモ県の丘にある村です。一方にアドリア海、もう一方にグラン・サッソ(Gran Sasso)の山並みがあります。公式サイトは、海からのやわらかい風と、山から下りてくる冷たい風がぶつかり合うことで、ぶどうがゆっくり熟すと説明しています。土は粘土に石灰が混じったものです。

夕方の丘で、手前にぶどう畑の列が広がり、左手の丘の上に村の家並み、奥に大きな山並みと雲の多い空が見える
トラーノ・ヌオーヴォの丘のぶどう畑。奥にグラン・サッソの山並みが見える(2024年8月)Giorgio Galeotti / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

畑は17ヘクタールで、醸造所のまわりに小さな区画が散らばっています。多くは、ぶどうの木を高く仕立てて、葉の天井の下に房を下げるペルゴラ(pergola)という昔ながらの棚です。エミディオは最初の畑を、すでに廃れていた「畑で接ぎ木する」やり方で植えました。先に台木だけを植えて根を深く張らせ、そのあと古いモンテプルチャーノの畑から選んだ芽を、自分の手で一本ずつ接いだといいます。その木はいま樹齢50年を超え、新しく畑をつくるときの苗の元になっています。

畑のまわりの土地では、ソラマメやヒマワリ、ヒヨコマメ、古い品種の麦などを5年ごとに回して育てています。一家は、そこで採れた麦や豆でパスタや粉もつくっています。

手前一面に青い麦畑が広がり、その奥の斜面に、幹を高く仕立てたぶどうの木の列が並んでいる
テーラモ県北部の村コントログエッラのぶどう畑。麦畑のとなりに、高く仕立てたぶどうの列が続く(2008年5月)pizzodisevo / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

歩み

エミディオは1932年の生まれです。ANSA通信によれば、祖父は1899年から家でワインをつくっていました。エミディオはその父と祖父の仕事を受け継ぎ、1964年に自分の会社を始めます。イタリアの食の情報サイト、スカッティ・ディ・グスト(Scatti di Gusto)は、このとき量り売りのワインを売るのをやめたと書いています。

そのころ、アブルッツォのワインは長く寝かせるものとは考えられていませんでした。同じサイトは、まわりに首を振られたときの父の言葉を、娘の証言として伝えています。

自分のやり方でつくれば、ワインは生きたままでいる。五十年たてば、これは偉大なワインになる。

蔵の中で最初に建てられたのは、瓶を寝かせておくための部屋でした。ワインは仕込んだあと、ろ過せずに瓶に詰めます。瓶の底には年月とともに澱がたまるので、注文を受けると、古い瓶の中身を一本ずつ手で別の瓶に移し、同じ年のワインを足して、新しいコルクに移し替えた年を刻んでから出荷します。公式サイトによれば、この作業をするのは20年以上たった瓶で、以前は10年としていた目安を延ばしました。

イタリアのワイン案内ガンベロ・ロッソは、エミディオを「ミスター・モンテプルチャーノ」と呼びました。

一家は2005年に、ビオディナミ(biodinamica)という自然農法を学びはじめます。公式サイトによれば、そのときソフィアは、その多くがすでに父のやり方だったことに気づいたそうです。エミディオは化学的な農薬を最初から使わず、畑や蔵の作業も月の満ち欠けに合わせていました。


代表的なワイン

「トレッビアーノ・ダブルッツォ(Trebbiano d’Abruzzo)」はDOC(原産地呼称)の白ワインです。白ぶどうは大きな木の桶に入れ、350キロずつ、40分あまりかけて足で踏みます。皮と果汁を長く触れさせることで、厚みと香りが出ると一家は説明しています。

「モンテプルチャーノ・ダブルッツォ(Montepulciano d’Abruzzo)」はDOCの赤ワインです。黒ぶどうは、木の桶の上に張った網の上で、手で房から粒をはずします。どちらも、コンクリートの小さな槽で、ぶどうに付いている酵母だけで発酵させます。槽のなかには、エミディオが1964年に使いはじめたものもいまだに現役です。一家の伝記の序文は、この赤ワインを、色が暗く、口当たりはビロードのようだと描いています。

「チェラスオーロ(Cerasuolo)」は、モンテプルチャーノを白ワインと同じように足で踏み、皮を除いて発酵させる、色の濃いロゼワインです。マルケ州との境の白ぶどうペコリーノ(Pecorino)の白ワインは、いちばんあとから加わりました。

日本の輸入元の説明では、国外に出すワインは樹齢の高い木のぶどうだけでつくり、ラベルに「ヴェッキエ・ヴィーニェ(Vecchie Vigne=古い畑)」と入れています。調査時点(2026年10月6日)に楽天市場で確認できた750ミリリットルの価格は、チェラスオーロの2024年が1万4,000円から1万6,500円ほど、トレッビアーノの2022年が2万1,000円前後、モンテプルチャーノは2022年が2万7,000円ほど、蔵で寝かせてから出た2008年が5万円ほどでした。


訪ねるには

一家は、エミディオが生まれ、ワインをつくりはじめた家を改装して、宿と食堂のアグリツーリズモ(agriturismo)にしています。公式サイトによれば、試飲は夕食と組み合わせる形で、夕食の前に決めた時間に蔵を見学できます。食堂は夏は水曜から土曜の夕食、10月からは木曜から土曜の夕食と日曜の昼食を出します(2026年10月6日時点)。テラスからは畑と村、その奥のグラン・サッソが見えます。予約や問い合わせは公式サイトのメールで受け付けています。条件は変わるため、訪ねる前に確認してください。