トアール(10R)ワイナリーとは?
10R(トアール)ワイナリーは、北海道岩見沢市の栗沢町上幌(かみほろ)にあるワイナリーです。公式サイトは自らを「カスタムクラッシュワイナリー(受託醸造所)」と紹介しています。ぶどうを育てていても醸造所を持たない農家が、ここへぶどうを運び込み、自分の名前のワインを仕込みます。使うのは北海道で育ったぶどうだけです。
公式サイトによれば、造り手たちは畑の場所も、栽培の考え方も、醸造のやり方もそれぞれ違います。どのワインにも10Rのロゴは入りますが、同じ味のワインも、同じ考えで造られたワインもない、と書いています。
名前の由来は、雑誌『サライ』の取材記事(2018年)に詳しく出ています。代表のブルース・ガットラヴさんは、はじめ造り手を特定しない「あるワイナリー」という名前を考えていました。妻の亮子さんが「それではつまらない」と言い、日本語の「とある」を数字とアルファベットに置き換えた「10R」になったといいます。自分の名前を入れなかったのは、生産者と一緒にワインを造る場所にしたかったからだ、と月刊誌『旅色』(2023年7月号)は伝えています。
雪に埋もれる空知の丘
岩見沢は、北海道の内陸の空知(そらち)地方にあります。『サライ』の記事は、空知を北海道のワイン産地の中でも寒さが厳しく、春と秋が長く、夏が短い土地と書いています。昼と夜の気温の差も大きく、そのぶんワインに酸がくっきりと出るといいます。ガットラヴさんは同じ記事で、空知は自分が育ったニューヨーク州のロングアイランドに似ている、じゃがいも畑があって、キジやシカがすむのどかな土地だ、と話しています。
冬は雪が深く積もります。ガットラヴさんは別の取材で、毎年向き合う問題として「4メートルの雪」を挙げています。一方で朝日新聞の記事(2021年1月)では、雪はぶどうの木を寒さから守る大切な要素でもあると話していました。ぶどうの木は零下15度を下回ると凍害を受けるおそれがありますが、雪の中は外よりも暖かいからです。
醸造所のすぐ横に、自分たちの畑があります。『サライ』の記事によれば、土は風化して崩れやすい粘土質で、水はけがよいといいます。2.3ヘクタールの敷地のうち、取材の時点(2017年)で1.4ヘクタールにぶどうが植えられていました。南向きの斜面で風が強く吹きつける赤ワイン用の区画は「風」、後ろに大きな森がある白ワイン用の区画は「森」と名づけられています。
歩み
ガットラヴさんは1961年、アメリカのニューヨーク州ロングアイランドに生まれました。カリフォルニア大学デイヴィス校の大学院で醸造を学び、醸造のコンサルタントとして働いていた1989年、栃木県足利市のココ・ファーム・ワイナリーに招かれて来日します。はじめは1年で帰るつもりでしたが、ぶどうづくりに懸命に取り組む人たちの姿に心を動かされ、日本に移り住んで醸造の責任者になりました(朝日新聞の取材による)。
ココ・ファームで全国のぶどうを仕入れるうちに、ガットラヴさんは北海道・余市町のケルナーという品種のワインに惹かれます。北海道のワインを飲んでは産地を訪ねるようになり、2009年に亮子さんと岩見沢へ移って畑を開き、2012年に10Rワイナリーを開きました。
受託醸造を始めたのは、ぶどうを育てたい人、ワイナリーを建てたい人が学べる場所をつくり、北海道をワインの新しい産地に育てたかったからだといいます。『サライ』の取材の時点(2017年春)で15の生産者のワインがここで仕込まれ、朝日新聞の記事(2021年1月)では、2020年に21の生産者からぶどうを受け入れたと話しています。ぶどうは空知だけでなく、余市や帯広、洞爺湖などからも運ばれてきます。
ガットラヴさんは造り方を教えはしますが、どれを選ぶかは造り手に任せ、「自分で考えてください」としか言わないそうです。ここで学んだあとに独立した造り手も多く、彼らを「ブルース・チルドレン」と呼ぶ人もいる、と『サライ』は書いています。
代表的なワイン
自分たちの畑と、北海道の契約農家のぶどうで造るワインは「上幌(かみほろ)ワイン」の名前で出しています。ラベルの文字とロゴは、奈良に住む篆刻家(てんこくか)に頼んだものです。
上幌ワイン「風」は、「風」の区画のぶどうで造る赤ワインです。『サライ』の記事によれば、この区画の95パーセントがピノ・ノワール(Pinot Noir)で、ピノ・ムニエやプールサール、ガメイが混ぜて植えられています。2015年の収穫では、粒を茎から外して仕込む樽と、房ごと仕込む樽を分け、瓶に詰める前に合わせました。
上幌ワイン「森」は、ソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc)を中心に、ピノ・グリやシュナン・ブラン、サヴァニャンなどが少しずつ植わった「森」の区画の白ワインです。収穫は例年10月の後半まで待ち、2016年のソーヴィニヨン・ブランは雪が降ってから摘んだといいます。記事は、とろりとした粘りがあり、夏みかんのような柑橘やトリュフの香りがすると書いています。
どちらも造る量が少なく、手に入りにくいワインです。ワイナリーには直売所が無いため、北海道の酒販店やワインを扱う飲食店で探すことになります。
