岩の原葡萄園とは?
岩の原葡萄園(いわのはら ぶどうえん、Iwanohara Vineyard)は、新潟県上越市の北方(きたかた)にあるワイナリーです。1890年に、この土地の地主の家に生まれた川上善兵衛(かわかみ ぜんべえ)が開きました。善兵衛は「日本のワインぶどうの父」と呼ばれています。いまでは日本各地で赤ワインに使われている黒ぶどう、マスカット・ベーリーA(Muscat Bailey A)を生み出したのが、この人です。
上越は、日本でも指折りの雪の多い土地です。冷やす機械のなかった明治の時代に、善兵衛は雪を使って、発酵中に熱くなるワインを冷やしました。敷地には、その頃に建てた石の貯蔵庫がいまも残り、ワインの熟成に使われています。
雪国のぶどう畑と石蔵
善兵衛がぶどうを植えた理由を、農林水産省の広報誌は雪から説明しています。上越の高田のあたりは雪が深く、米づくりは雪に悩まされ通しで、農家の苦労は「三年一作」と言われたほどでした。地主の家の長男として、その姿を見て育った善兵衛は、荒れた土地でも育つぶどうでワインを造れば、農家の暮らしの助けになると考えたといいます。
雪との付き合いは、いまの畑にも残っています。ぶどうの枝を頭の上に張った棚に這わせる「棚仕立て」は日本でよく見られる育て方ですが、ふつうの高さの棚では、ここでは木が雪に埋もれて傷んでしまいます。そのため岩の原葡萄園は、棚を一般の1.8メートルほどより高い、2.3メートルほどに張っています。木の主な枝も、雪の重みで幹が裂けないよう、わざと交差させて育てています。
敷地には、明治に建てた石造りの貯蔵庫が二つ残っています。1895年にできた第一号石蔵は国の登録有形文化財、1898年にできた第二号石蔵は上越市の指定文化財です。新潟県の観光サイト「にいがた観光ナビ」は、第一号石蔵を「日本最古にして現役のワイン貯蔵庫」と紹介しています。熟成には、いまもこの石蔵でアメリカンオークの樽を使っています。
2005年には、第二号石蔵に雪室(ゆきむろ)を併設しました。冬の雪をためておき、その冷気で蔵の温度を保つしくみで、昔のように雪を使ったワイン造りと、二酸化炭素を減らすことを目的にしていると、同社は農林水産省の広報誌の取材に答えています。
歩み
川上善兵衛は1868年、いまの上越市北方にあたる村の大地主の家に生まれました。7歳で父を亡くして家を継ぎ、のちに慶應義塾で学んでいます。ワイン造りを志したのは、川上家と古くから付き合いのあった勝海舟と交流するうちにぶどう酒を振る舞われ、ぶどうが荒れた土地でも育つことを知ったのがきっかけだったといいます。1890年、自分の家の庭園を鍬(くわ)ひとつで耕して、葡萄園を開きました。
その2年後には、ワイン造りを学ぼうと山梨の勝沼を訪ねています。まるき葡萄酒の公式サイトによれば、フランス帰りの土屋龍憲の家が善兵衛を泊めてもてなし、知っている限りの造り方を伝えたといわれています。
それから約30年、善兵衛は海外のさまざまな品種を植えてみましたが、上越の気候に合うものは見つかりませんでした。そこで1922年から、自分でぶどうを掛け合わせて新しい品種をつくり始めます。交配は1万回を超え、優れた品種として22種を世に出しました。マスカット・ベーリーAは、1927年にアメリカの品種「ベーリー(Bailey)」とヨーロッパの「マスカット・ハンブルグ(Muscat Hamburgh)」を掛け合わせ、1931年に初めて実をつけた、交配番号3986番のぶどうです。
岩の原葡萄園は、この品種の名前を「マスカット・ベリーA」ではなく「ベーリー」と書くことにこだわっています。母親にあたる品種の英語の綴りが「Bailey」であること、善兵衛自身が論文で「ベーリA」と書いていることを理由に挙げ、「断じて『ベリー(Berry)』ではありません」とまで書いています。
善兵衛は1941年、品種の育成の研究で日本農学賞を受け、1944年に亡くなりました。
代表的なワイン
農林水産省の広報誌は、岩の原葡萄園が育てている品種のうち、代表的な三つと、それぞれのワインを紹介しています。
マスカット・ベーリーAは、このワイナリーを代表する赤ワインです。品種としては、イチゴのような甘い香りを持ち、渋みのもとになるタンニンが少なく、軽やかなものから濃厚なものまで、さまざまなワインに仕立てられるとされています。岩の原葡萄園の「マスカット・ベーリーA」は、華やかな香りと豊かな深みが特徴だといいます。
ブラック・クイーンは、善兵衛がベーリーと「ゴールデン・クイーン」を1927年に掛け合わせて生んだ黒ぶどうで、マスカット・ベーリーAより酸が強く、引き締まった味のワインに向いています。ワインは豊かな酸味が持ち味で、タンニンと、新しいアメリカンオークの樽からくるスパイスのような熟成の香りが調和しているとされています。
レッド・ミルレンニュームは、1929年に生まれた品種です。透き通った淡い紅色の実をつけ、華やかな香りがあり、甘口にも辛口にも仕上げられます。甘口の2018年は、「フェミナリーズ世界ワインコンクール(Féminalise)」の2019年の大会で金賞を受けたと、同じ広報誌は書いています。

