Vino Storia

ワインのお話

ヴァッレ・ダオスタ

針葉樹の林に囲まれた緑色の小さな湖。その奥に、雪の残る三角形の岩山がそびえ、湖畔の小道を人が歩いている
ヴァルトゥルナンシュの湖ラーゴ・ブルーと、夏のチェルヴィーノ(マッターホルン)Patafisik / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons(長辺1280pxに縮小)

ヴァッレ・ダオスタに、DOCGはありません。

モンブランの麓から下る、ひとすじの谷

イタリアの北西の端にある、国でいちばん小さな州です。北はスイス、西はフランスと接し、まわりをヨーロッパで最も高い山々が囲んでいます。州の土地は、ドーラ・バルテア川(Dora Baltea)が東西に流れる谷とほぼ重なります。州都のアオスタ(Aosta)はローマ時代の遺構が多く残る街で、この州ではフランス語がイタリア語と同じ扱いを受けています。

ぶどう畑は、谷の底と日の当たる斜面に並びます。谷の入口にあたるポン・サン・マルタン(Pont-Saint-Martin)やドナス(Donnas)から、モンブラン(Monte Bianco)の麓にあるモルジェ(Morgex)の標高1,200メートルまで、90キロに満たない道のりを上っていきます。雨は年に500ミリほどと少なく、アルプスの内側の谷らしい、寒さの厳しい乾いた気候です。急な斜面には石を積んで段々畑を築いてきました。生産規定によれば、それは景色のためではなく、暮らしを立てるために人々が力を合わせてつくったものです。

州にひとつだけの原産地呼称

この州は品種の数が多く、規定は7つを土地の品種に数えています。アオスタのまわりのトッレッテ(Torrette)では、黒ぶどうのプティ・ルージュ(Petit Rouge)が赤ワインの主役です。谷の入口のドナスでは、ネッビオーロ(Nebbiolo)を85パーセント以上使った赤ワインがつくられます。いちばん奥のモルジェとラ・サル(La Salle)の白ワインは、白ぶどうのプリエ・ブラン(Prié blanc)だけからつくります。ここのぶどう棚は地面から1.5メートルほどと低く、平たい石の板に支えられています。

産地や品種、造り方の条件を満たしたワインだけが名乗れる名前を「原産地呼称」といい、そのうち条件のより厳しい区分をDOCG、それ以外をDOCと呼びます。農業省の2026年3月の一覧では、この州にDOCGはなく、原産地呼称は、フランス語でヴァレ・ダオスト(Vallée d’Aoste)とも書くヴァッレ・ダオスタ(Valle d’Aosta)というDOCひとつだけです。産地をゆるやかに示す区分(IGT)もありません。そのかわり、ラベルにはトッレッテやドナスのような7つの土地の名前や、19の品種の名前を添えることができます。

日の光の多い谷と、冬の職人の市

生産規定によれば、高い山に囲まれていても谷の日照は年に2,200時間ほどあり、9月と10月には気温の上がり下がりが大きくなります。Treccaniの百科事典によれば、土地の人は谷底を「プレーヌ(Plaine)」、高地を「モンターニュ(Montagne)」と呼びます。谷底のほうがずっとおだやかで、高地は標高と大西洋から来る空気のために寒さが厳しく、雨や雪も多く、標高2,500メートルより上には万年雪と氷河が残ります。

12世紀の終わりからサヴォイア家(Savoia)の国に属し、イタリア王国に入ってからも土地の言葉と文化を守って、ファシズム政権のイタリア語化の政策に抵抗しました。1948年に、特別な自治を持つ州として認められています。毎年1月30日と31日には、アオスタの中心街に州の職人が集まるサントルソの市(Fiera di Sant’Orso)が開かれ、木彫りや、古い木の織機で織る毛織物のドラ(drap)が並びます。