牛久シャトーとは?
牛久シャトー(Ushiku Chateau)は、茨城県牛久市の中央、JR常磐線の牛久駅から歩いて8分ほどのところにある、明治のワイン醸造場です。浅草の「神谷バー」や「電気ブラン」で知られる実業家、神谷傳兵衛(かみや でんべえ)が、1903年に「牛久醸造場」として開きました。本館の正面には、いまも「CHATEAU D.KAMIYA」の文字が刻まれています。
旧醸造場の事務室、醗酵室、貯蔵庫の3棟は、2008年に国の重要文化財に指定されました。文化庁が付けた指定の名前は「最初期の本格的ワイン醸造場施設」です。所有者のオエノンホールディングスと運営会社は、これを「日本初の本格的ワイン醸造場」と紹介しています。
この場所は、古い建物を眺めるだけの史跡ではありません。運営する牛久シャトー株式会社は、旧醗酵室(いまの神谷傳兵衛記念館)の中にワイナリーを置き、敷地の畑のぶどうからワインをつくっています。2026年6月には、全国の造り手を表彰する日本ワイナリーアワードで3つ星を受けました。
牛久の原野に開いたぶどう園
傳兵衛がぶどう園を開いたのは、茨城県稲敷郡岡田村の女化原(おなばけはら)と呼ばれた原野でした。いまの牛久市です。オエノンの資料によれば、1898年に23町歩を開墾し、東京で試しに育てていたフランスのぶどうの苗を移して「神谷葡萄園」と名づけました。運営会社の年表は、1897年に原野120町歩を買って開墾を始めたと書いていて、数字がそろっていません。
オエノンの資料によれば、当時北海道や新潟で始まっていたぶどうづくりは、どれもアメリカ系の品種でした。同じ資料は、フランスの品種を日本で育てるのは無理だと考えられていたなかで、傳兵衛が「育たないのは研究が足りないからだ」と考えていたと伝えています。

醸造場は1901年に建て始め、1903年9月に完成しました。ボルドーの最新の様式を取り入れたレンガ造りで、文化庁は、醗酵室が階ごとの設備の配置から当時のワイン造りの工程をうかがえる建物だと評価しています。敷地はおよそ6万平方メートルあり、2020年には、山梨県甲州市とともに申請した「日本ワイン140年史」の物語が日本遺産に認められました。
歩み
神谷傳兵衛は1856年、三河国(いまの愛知県西尾市)に生まれました。17歳のころ、横浜の外国人居留地にあったフランス人の洋酒醸造所で働いていたとき、原因の分からない病で弱った体が、雇い主にもらったワインで回復したといいます。オエノンの資料は、これが「日本人の誰もが飲める葡萄酒を国内でつくりたい」と考えるきっかけになったと書いています。
1880年に浅草で酒の一杯売りの店を開き、輸入ワインに蜂蜜や漢方薬を加えた甘い葡萄酒「蜂印香竄葡萄酒(はちじるしこうざんぶどうしゅ)」で成功します。それでも傳兵衛が目指していたのは、ぶどうの栽培から醸造までを自分の手で行うことでした。
その夢を担ったのが、婿養子に迎えた傳蔵です。山形県の出身で、婚礼の3日後にはフランスへ発ち、ボルドーのカルボン・ブラン村の醸造場で2年あまり学んで、修了証を受けました。帰国のときには、参考書や醸造の道具、土のサンプルまで持ち帰ったといいます。

完成した醸造場のワインは、1903年にイギリスの水晶宮で開かれた博覧会で名誉金牌を受けるなど、国内外で賞を重ねました。傳兵衛は1922年に66歳で亡くなり、傳蔵が二代目傳兵衛を継ぎました。
建物はいま、オエノンホールディングスが所有しています。同社は2019年に牛久市と賃貸借の契約を結び、2020年に市が全額を出資して設立した牛久シャトー株式会社が、建物を活かした運営とワインの醸造を担っています。2024年には、市内の少年院、茨城農芸学院で育てたぶどうも使い、醸造場の120周年を記念するワインを出しました。
代表的なワイン
牛久葡萄酒 Merlot(メルロ)は、牛久シャトーの畑で育てたメルロからつくる赤ワインで、会社がこのワイナリーの代表としているものです。甘くやさしい香りに、軽やかな口当たりと、さわやかな酸が広がるとされています。ラベルには明治時代の包装紙のデザインを使っています。2025年産は1,200本限定で、2026年6月27日に発売されました。
マスカットベーリーA F+ と マスカットベーリーA A+ は、牛久で育てたマスカット・ベーリーA(Muscat Bailey A)に、二代目傳兵衛の故郷である山形県のマスカット・ベーリーAを加えた赤ワインです。会社は、さわやかな果実味とやさしい酸があり、渋みがやわらかいので和食と合わせやすいと説明しています。F+はミネラル感のある酸、A+はベリー系の香りとすっきりした味わいが特徴とされています。F+は2026年の日本ワインコンクールで銅賞を受けました。会社によれば、牛久シャトーのワインがこのコンクールで賞を受けたのは初めてです。
調査時点(2026年11月3日)に会社が告知していた税込価格は、牛久葡萄酒 Merlot 2025(750ミリリットル)が4,180円、マスカットベーリーA F+とA+がそれぞれ3,080円でした。ショップで売っています。

